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翼竜聖女  作者: 黒御影
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厄災

「ありゃ無理だ!!皆!!退却だ!俺が殿を務める!早く行けぇ!!」


何故こうなってしまったのか。

砂漠に咲く青い花を、洞窟の奥の社で焚き、神の加護を待つだけの簡単な作業だった筈なのに。

アギトは動かなくなったカグヤを背に担ぎ、シェリルの手を引いてきた道を必死で走り出す。

祭壇とも呼べる、木製の小さな家を模した社。

それを最奥に、洞窟内に不自然に拡がっている巨大な空間。

そこにそれは現れた。

ぐにゃりと球体の様に空間が歪み、中から黒い液体のようなものが細長く、少しづつ這い出て、ついにはドレット達を囲むようにとぐろを巻いて形を成す。

光沢のある黒い鱗。

呼吸と共に漏れる黒炎は、確認されている中で最強の威力を持つ。

巨大なヘビを思わせる体には確かに二つの羽根が着いている。

何よりも、竜族共通の金色の眼。

そして左右対称に伸びる「6本」の角。

間違いなく、そこにいるのは厄災クラスの魔物、獄炎竜ウロボロスだった。


「二百年ぶりに体を動かしたぞ。小僧、お前が迦具土の封印を解いたのだな。」


地の底から震えるような声に、ドレットの体はビリビリと震えた。


「なんの事だ?」

「とぼけるな。貴様がこの封印を無効にしたのであろう。

儂に何を望む?また昔の様にこの一帯を焼き尽くして欲しいのか?」


そうか、術式が竜の封印に作用したのだ、とドレットを理解した。

恐らく火之神に寄って封じられていたこの竜を封印をドレットが「無効果」してしまったのだろう。


「この辺一帯が砂漠なのはそのせいか」


二百年もの間草木一本生えない状態がつづく等、つくづく冗談ではない。

いかにドレットが強いとは言え、いや、強いからこそウロボロスの危険度を尚更認識出来る。

下位竜、上位竜、竜王・・・竜神クラス。

大地を作り替える等、神の力を持たねば出来ない。

とてもドレット1人では手に負える相手ではないのだ。


「どうした?怯えているのか?」


大地がグラグラと揺れる。

ウロボロスが笑っているらしい。


「安心しろ。すぐには殺さん。二百年も亜空間を漂っていたのだ。その間、世界がどう変化したのか興味があるのでな」


「・・・話しを聞いたらどうする?」


「苦しんで死ぬか、苦しまずに死ぬか、違いはそれだけよ」


またグラグラと地面が揺れた。


対峙しているだけで発狂しそうだ!!

人並み以上の胆力をもつカグヤですら、ウロボロスのもつ文字通り別次元の波動には1秒と耐えられなかった。

脂汗が止まらない。

この世に、こんな生き物がいるとは到底信じられなかった。

戦闘になれば到底勝ち目はなかった。


「闇よりも深き竜の神よ。一つ、オレと賭けをしないか?」







炎の洞窟の入り口よりやや離れた湧き出る泉。

カグヤは絶叫とともに跳ね起きた。

「アレはなに!!!ここは何処!!わたし、死んだの??ここは冥界??」

完全に錯乱している。

だが、カグヤを宥めるものはいない。

シェリルとアギトは激しい口論をしていたから。


「そこをどいて!!ドレット!ドレットーー!!」

「ここは通せねぇ!早く、遠くに逃げるんだ!!」

「嫌よ!ドレットを助けに行く!!ドレットは私を待ってる!」

「自惚れるな!!!嬢ちゃんが行ったって、なんの助けにもならねぇ!!足手纏いになって、死ぬ確率が増えるだけだ!!」

「ーーッ!!どきなさいっ!ストーンバレット!!」


地中から突き抜けて現れた大小様々な石が、地を這うように最短距離でアギトを襲った。

「三光!!」

目にも留まらぬ動きでアギトは黒い影と化す。

しかしキラリと太陽の光を弾く剣筋は全ての石を両断していた。


「ここは行かせねぇ。アイツは言った。いざという時、シェリルと背中を任せれるのかってな。

今がその時だっ!!」

「どきなさいって言ってるでしょ!!グレイス・オブ・クエース!!!」


シェリルは躊躇いもせず両手を大地に叩きつけた。

一面が一瞬にしてヤマアラシの針のように鋭利な棘と化す!

だが興奮したシェリルはアギトの姿を完全に見失っていた。


どすっ!!


鳩尾に衝撃が走り、息が詰まる。

興奮、大声による酸欠も手伝ってシェリルの視界は暗くなっていく。

そしてその場に崩れ落ちた。


「五光を使うなんて・・・そんなにヤバかったのかい?」

自力で呼吸を整えたカレンがよろよろと歩きながらアギトに尋ねた。

アギトはなにも言わず、シェリルを抱きかかえる。

「・・・・あんた・・その背中・・・。」

「一瞬でも躊躇してたら、オレは串刺しになって死んでただろうよ」

術が発動するほんの一瞬前、身体能力の限界値の速度でアギトは間を詰めた。

二人の間は約10歩。

術の範囲から脱出した筈なのに、アギトの背中は甲冑を意ともせずズタズタに裂かれていた。


「早く行こう。安全な所があるとは思えねぇが、少しでも離れたほうがいい。」

「あたし達が見たアレはなんだったんだい?ドレットはまだ中にいるんだろう?」

「アイツの指示だ。指示に従うのがオレの仕事だ。

・・・・アレは、この辺一帯を砂漠に変えた化け物だろう。伝説が、生き返ったんだ」

「・・・地獄の炎の化身・獄炎竜ウロボロス・・・じゃあ、逃げ場なんて・・・」

「・・・今は生き延びる事を考えろ。街の人間にも警告しにいかなきゃならねぇ。」

「・・・・あたしはここで待つ。」

「・・・・」

シェリルと言い、カグヤと言い、どうしてそこまで命を賭けれる?

どうしてそこまでアイツに賭けれる?

「どっちみち、ここを突破されたら、逃げ場なんかねぇ、か。」

アギトは抱えていたシェリルを泉の傍にそっと降ろし、自らも腰を降ろした。

「洞窟の中に入るのは許さんぞ」

カグヤはアギトの横に腰を降ろし、気を失っているシェリルの頭をそっと撫でた。

「あたしじゃあんたには勝てないからね。

付き合ってくれて、ありがと。」

「・・・お前には世話になったからな」

絶え間なく続いていた地震が、一際大きく揺れた。


そして厄災が、目覚めるーー。


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