参佰参佰弐
今週末は、祝日が重なって三日間の連休になっている。
わたしがアルバイトをしている『mild’S』は、住宅街のなかにポツリとある喫茶店だ。
休日が増えると遠出をする人も多くなるみたいで、特に夜になるといつも以上に街は静かになる。
だから今日みたいな日には、マスターは夕方を過ぎた頃合いでお店を閉めるのだ。
夜の時間が空いたことだし、実家に帰ろう。
もともとアルバイトを終えてから行こうと思っていたから、軽いお泊まりセットを鞄に入れてきている。
距離が遠いわけでもないからと、わたしは駅をはさんだ反対側の街へ歩いて向かった。
実家と言っても、過ごしていたのは小学校2年生から高校3年生の間だけ。
母親の兄と、その妻。
2人はわたしのことをどんな風に思っていたのか。
本人から直接気持ちを聞いていたって、こっちが勝手にこういうものでしょうと決めることなんてできない。
ただ、伯父さんと伯母さんは一度だって、わたしに嫌な顔ひとつ見せたことがなかった。
インターホンを押すと、出迎えてくれた伯母さんはエプロンで手を拭きながら微笑んだ。
これから夕食の準備をするみたいで、手伝おうかと口にするとやんわりと断られた。
リビングにいる伯父さんと、一緒に待っていて、と。
顔を見せて最初にチラとこっちを見ると、彼は一言「座ってなさい」と言って夕刊に視線を戻す。
伯父さんの正面で佇まいを直すも、相手が顔をあげる様子はない。
「ねえ、伯父さん」
調子を窺うようにソッと声をかけたら、短く「どうした」とだけ返ってきた。
「わたし、実はある人と仲違いしちゃって。きっと何か間違えていたんだろうけれど、間違えすぎて、どこから正せばいいのか分からないの」
たくさん思い当たることがあって、まず何から手をつけようかと考えることはする。
だけど、どれも一番に持ってこなくちゃあいけない気がして、また悩み直すことになるのだ。
ぜんぶの問題を、これは先、これは後でと決める基準がわたしの中にはない。
「そうか」
相手の声は、短かった。
口数が少ないところは変わっていない。
伯父さんはずっとそうだ。
彼がたくさん話す姿なんて、昨年のクリスマス以外に知らないけれど。
そう思うと、普段は極端に静かなだけなのだろう。
そういうところに、ホッと安心していられる。
話の一端でも聞いてもらえたことで、つっかえの詰まり具合が薄れたらしい。
わたしは少しだけ、体の力を抜いた。
「それで」
伯父さんは、たたんだ夕刊をテーブルに置く。
「その相手は、怒っていたのか」
「ううん」
前に怒っているさまを見たことがあるけれど、あの日の睦美さんは怒っているのとはちょっと違ったように思えた。
不機嫌でもなかったと思う。
呆れてはいても、わたしを見てくれていた。話の最中だって、目を逸らすことはしなかった。
「眉は顰めていた気がする。……うん。泣きそうな顔だった」
「なら、その人は悲しいんだろう。きっと」
「悲しい? わたしが、分からず屋だからかな」
呆れられて嫌われるだけなら、まだいい。
でも、わたしと話したことで彼女が悲しい思いを抱くことになったとしたら……。
自ら離れようとしているのに、とも思う。
だけど、別離寸前の印象が悲しいだけになってしまうのは嫌だった。




