参佰参拾壱
自分の言っていることと、行動が噛み合っていないのは分かる。
批難も何もさせたくないと言いながら、わたしは彼女の言葉を待っていたのだから。
黙っているだけのわたしを残して、睦美さんは会計札を片手に立ち去ってしまった。
別れ際になっても、わたしは口を開くことができなかった。
彼女に何も応えられない。返せもしない。
人から望まれることのない話を、これ以上続ける気にはなれなかった。
わたしが欲しがっている言葉を、彼女は声にしたくないのだ。
交わらないものに縋っても、言葉を求めた相手は目の前にいない。
静閑な小道を抜けて駅のほうへ出ると、賑わいはすぐ耳に入ってきた。
ちょうど帰宅時間なのだろう。
スーツ姿の人も、学生も、日々繰り返している往来を今日も続けているだけだ。
それが当たり前で、わたしもそうしていた。
みんなと同じ行動を取っていれば、自分は間違えていないのだと思うことができた。
でも、どこかでズレてしまう。
1つズレたら、次もズレていく。そうしているうちに、いつのまにか全く違う方向へ進んでいる。
元の、普通の進み方に戻りたくても、後ろへ引き返す道は既に崩れ落ちていて。
結局、間違えてしまった道をひたすらまっすぐ進むしか、することがなくなってしまうのだ。
変わろうとして、変われなくて。
普通に生きようとして、足下がぐらついて。
上手に何でも熟したいのに、何も分からなくなっていく。
正解が見えないまま、正しさばかり求めてしまう。
何をしたら、変わったことになるの。
何に目を向けたら、普通でいられるの。
何が、上手な生き方にしてくれるの。
わたしの行動は、間違いだった。
それだけのことだ。
正し方を知らなくても、離れるだけなら簡単で。
今すぐに変われるわけじゃあない。
だから変われるまで待ってほしいなんて、ずっと待たせてきたわたしが言えたことではない。
このまま距離を取っていれば、わたしの衝動が原因で危ない目に遭うことはなくなるだろう。
珋二さんが思い悩むのも、柳一さんが恐い顔をするのも、悠二くんが怪我をしたのも、椎名が傷つくのも。
わたしの軽率な行動のせいだ。
もう、誰のことも巻き込みたくない。
ふと、今までのことを思い出してみる。
分かっていた。一人でいるほうが、状況はずっと穏やかだ。
誰かに抱いた感情で、自分を振り回すこともなくなる。
自分のことで、誰かを振り回すこともなくなる。
この方法以外に、わたしは避けるすべを知らない。
傷つくことも、傷つけてしまうことも二度となくなるのだ。
帰り道で見た夕日は、ひどく目に沁みた。
会いたい。
今日の赤く焼けた空は、ちいさい頃にパトカーの窓から見えた外の景色に似ている。
あの時、わたしの頭をなで続けていた伯父さんの手を思い出した。
顔を見たい。声を聞きたい。
また、あの大きな手を乗せてくれるだろうか。
嫌な気持ちを抱えたままの自分でも、迎えてくれるだろうか。
唯一、わたしに残された親族は……──。




