参佰弐拾肆
飛び出しかけたところで、横から思いっきり誰かがぶつかってくる。
まるで体当たりのような勢いに負け、迫る地面に体を硬くして身構えた。
けれど、痛みを感じるより先に頭上から声が届く。
「──っと、間に合った」
「え? え……? ……りゅ」
柳一、さん……──!?
意外な人の登場で驚いて声を失うわたしに、相手は少しだけ見下したような目を向けてくる。
本当はそんな視線じゃあないのかもしれないけれど、彼の鋭い眼光にこういう状況が重なると、つい萎縮してしまうのだ。
「な、んで?」
「あんた馬鹿か。このまま向かっていって、自分でなんとか出来るとでも? 無理だな。あんたにそんな力はない」
いつもの柳一さんじゃあないと思ったら、普段と違って口調が乱れている様子。
随分と余裕がなさそうだ。
それにしたって、一言目に馬鹿か、は大げさだと思う。
せめて、大まぬけくらいに留めておいてほしい。
「だ、だって……」
別のことを考えながら言い訳を絞りだそうとしていると、彼のもともと寄せていた眉間の皺が深くなったような気がした。
「余裕そうで何よりですがね、自分がどれほど危険なことをしたか分かっているのですか?」
あ、口調が戻ってる。
自分の知っている彼の姿に戻ったことで安堵し、わたしは柳一さんに抱えられたまま笑みを返した。
「笑っている場合じゃあないんですよ。ほら、自分の足で立ってください」
言われて地面に足をつけると、もうしっかり自身の力で立っているという感覚がある。
あの瞬間の心許なさは、二度と経験したくない。
わたしが新たな動揺を前にしている間に、物事は進展したらしい。
気付くと涸沼さんは、黒いスーツとラフな格好のお兄さん達によって、地面に抑えつけられている。
離れた場所にいる珋二さんはスマホを耳にあて、真剣な顔で誰かと連絡を取っていた。
いつのまにか、椎名が悠二くんを抱えてこっちに向かっている。
あと2歩半くらいかなという距離で、わたしは坊主頭の怪我人に歩み寄った。
「どうして、庇ってくれたの?」
「そりゃあ決まってるっスよ。オレたちにとって、大事な人だから」
彼らの、ということは、梓先にとってという意味でもあるのだろう。
珋二さんの下につくものとして、みんなそういう意識を持って行動していることは薄々気付いている。
だけど、それだけを理由にされると、やっぱり寂しい……。
わたしのなかの感情は見抜かれたのだろう。
悠二くんは血に濡れていないほうの手で、優しくわたしの手をすくいあげた。
「──それに、オレ、あんたのこと大好きなんス。友だちのピンチに、迷わず駆けつけて立ち向かうなんてかっこよすぎっしょ。そういうあんただから、兄貴に似てるあんただったから、オレは……」
途中で言葉を切って、彼はまた笑みを浮かべる。
誰でもない悠二くんの笑顔に、わたしはつい絆されそうになる。
不意に言葉を飲み込みかけて、やっとの思いで声を絞り出した。
「もう馬鹿! ……馬鹿だよ、悠二くんは……──」
「──うっす」
眉を八の字にして、相手は少し困ったような表情をする。
でもどこか嬉しそうにも見えて、わたしは悠二くんを咎めたい気持ちになった。




