拾壱
「済んだか?」
「・・・はい」
結局良い案は出なかったけど、そもそも私、無関係なんだし他人だし、連れ回される覚えもないし、帰っても良いんじゃないか、と思えてきた。
トイレをお借りしたので、気持ちばかりのお礼と思い、コンビニで飲み物を買っていった。のだが、そこで問題は起きた。
「ったく。そんな怒んなよ。俺が金出したくらいで」
「嫌なの!人に出させるのが!私の買い物なのに!」
「俺だって女に財布出されるの、嫌なんだ!黙って奢られとけ!」
「関係ない他人に、そんなことさせられないよ!」
そういう関係じゃないし。一昨日会ったばっかの、相手のこと何も知らない関係で。お金なんて出させられないよ。
「俺が隣にいる以上、女に金は不要だろうが!」
「他の女の人はそうかもね!」
「・・・・」
「でも、私は違う。私は、」
「そうやって、」
「・・・?」
「今まで付き合った男に貢いでたのか?そうやって、尽くしてる自分を想像して、自己満足に浸ってたのか?お前、相当可哀想な奴だな」
パシィン!!ビンタした。凄く良い音が出た。叩いた手はジクジクと痛い。彼の方も少し痛そうで、頬が真っ赤になってる。
何こいつ。人のこと好き勝手言って。
「私はそれでも幸せだったのっ!!自己満足でも良いよ!でも、私は自分を可哀想だなんて思ってない!!」
ああ、やっぱりダメだった。私の男運の悪さって、本当に懲りるってことを知らないよね。
なによ。ちょっと良い人だなって思ってたのに。
店を出てすぐのところで、そんな状況が起きていたので、勿論部下2人の目には入る訳で。
「おい、女」
「お前、珋二さんに」
目の前で凄んでくる男2人の威圧が本物すぎて、一般的な生活を歩んできた私は腰を抜かしそうになった。
いや、でも悪いのは向こうだし!
「なにか?」
あー、違う!何で強気に出ちゃうのよ私!せめて穏便に話繋げようよ!
「柳一、悠二。やめろ」
目の前の業火の如く憤ってる2人を、急速に冷やす猛吹雪の様な気配が、背後から迫ってきている。
「ひっ・・・」
私は無意識に、小さな悲鳴を上げていた。
「おい、こっち向け」
何言ってるんですか、あんた。正気ですか?恐くて振り向ける訳ないじゃないですか。
私はただ固まって、気配が動くのを待った。
「じゃあ、そのままでいいから、行くぞ」
何か咎められる訳でも、やり返される訳でもなく、自然な感じで腰に手を回され、そのまま後ろから押し歩かされる。
「え?兄貴?」
部下2人も彼の行動に困惑して、唖然としている。
「ほら、さっさと車に乗れ。まだ行くところがある」
当の兄貴本人に促されて、ハッと気付き、慌てて前の席にそれぞれ着いていく。
私も後ろから促されたので、後部座席のドアを開けようとしたら、背中から伸びてきた逞しい腕で遮られ、距離の近くなった耳元で、
「言い過ぎた、悪い」
と小声で言われた。慌てて振り返ると、鼻が当たって擦れそうなくらい、彼の整った顔が近くにあって、不覚にもドキドキと心が鳴った。
やばい。しかも、息が頬にかかってたよ、さっき。
赤くなってる気がする顔を見られない為に、さっさと車内に入り込む。それから全身に広がった甘い熱が冷えるまで、ずっと窓の外を見ていた。
2人の仲が一向に進展する気配がありませんが、大丈夫です。ちゃんと2人の心の距離は近くなりつつあります。主に彼の方から積極的に、ですが。
どうか心優しい画面の前のあなた、辛抱強く進展を待機して貰えると有り難いです。お願いいたします。