拾
「で、俺に話があるんだろ?」
気の済むまで男2人から羨望を向けられて、ご機嫌の程は絶好調らしい。
調子に乗ってる顔なのに、何でこんなに様になるんだろう。逆に腹が立つ。
「はあ。……あったけど、何かどうでも良くなった」
「俺のこと、聞きたかったんじゃないのか?」
そうですか。何でもお見通しですか。
「じゃあ聞くけれど、りゅうじさんってソッチなの?」
「「「ソッチ?」」」
3人の声が揃った。野太い声のハモりは、そこそこ凄みを感じる。
「だから、女じゃなくて、男が」
「は?」
りゅうじさんに凄い睨まれた。
その威嚇はどっちの意味だろうか?
図星からの照れなのか、何言ってんのお前みたいな方なのか。
「んな訳ねえだろうが。俺は女しか無理」
「おれも兄貴には、尊敬と憧れしか抱いてないですね」
「オレもっスよ。好きだけど、そっちじゃないっス」
3人とも否定を口にする。そりゃそうだよね! 何かごめんね!
前2人の解答は求めてなかったけれどね!
「てか、お前、そんなこと聞きたかったのか?」
いえ、違います。話を逸らしただけです。
「えーと、何ていうか、その……」
わたしがどう言ったものか戸惑っていると、耳の端で微かに吐息を感じた。
それもりゅうじさんがいる隣からで、距離の近さを感じ驚いて固まる。
「我慢すんなよ」
体を強張らせていたら囁かれました。しかも凄い良い声で、良い低さで。
ヒィ……という小さな悲鳴と共にわたし、顔、熱い……!
「な、ななな、何!? 何ごと!」
動揺して、思わずドアの側まで飛び退くように下がる。
なのに彼は全く表情も変えず、こちらを黙って見ている。
その余裕のある素振りがわたしの負けず嫌いに火を灯し、割とすんなり冷静に戻ることが出来た。
「俺に話があるんだろ?」
まだ余裕を見せる彼がまた切り出したので、自分も元の場所に座り直して顔を正面から見据える。
驚いたように瞳が動いた気がするけど、一瞬だったし気のせいだろうか。
「話っていうのは、その、えっと、……お手洗い行っても良いですか?」
互いの顔をちらと見合わせている3人ともが、何とも言えない表情をした。
「ああ、いいが」
そして、コンビニに寄って貰った。
***
トイレの中で考える。
別にトイレ自体に用があったわけじゃあない。
ただの時間稼ぎだ。
推測は出来るし確信に近いけど、そこを突つけば蛇が出て来そうな気がする。
踏み込んではいけない藪に、迷い込んだみたいに。
「はあー。どうしよう」
とりあえず祈るような気持ちで、鏡の前で手を合わせてみた。
試しに読んでくださった方も、ブクマしてくださってる方も、ツイートから飛んできてくださった方も、読了ありがとうございます。