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足音

 これは私が持っている数少ない「怖い体験」の一つである。まあ、所詮凡人の経験を元にしたノンフィクションなのだ。悲しいことに大したオチもヤマも有りはしない。純粋なフィクションを書く程の気力も才も無いため、仕方が無いのだが。


 君たちの中に一度も「合宿」をしたことがない人間は一人でもいるのだろうか?おそらく、塾や部活動、林間学校と何度も合宿を経験している人が大半だと私は予想する。

 さて、今回の話は私が高校生の頃、部活動に青春の汗を流していた頃の話だ。まあ、その青春は三年間控えのまま終わってしまったのだが。


 私の通っていた学校はかなり古い学校であり、旧校舎が存在していた。といっても、大半は取り壊されており、一部が特別な用事で使用される程度で殆ど生徒には解放されていなかったのだ。

 これから話す、部活生向けの宿泊施設も含めてである。


 あれは私が部活動に入って半年もしなかった頃だ。数年前から、私の部活動では毎年兄弟校との企画で共同合宿が行われており、二日間私たちは校舎内に宿泊する必要があった。

 しかし、新校舎の比較的綺麗な学生向けの宿泊施設は兄弟校の人たちが使うために私たちが止まる場所がなかった。そのため、先輩含め私たちはほぼ使われていない旧校舎の宿泊施設に押し込められることになった。

 おそるおそる中に入ってみると思いの外汚くはない。毎年、使用後に先輩たちが清掃しているうえに、全く使われていないことが原因だったのだろう。古い以外は何一つ問題がない建物である。


 時計は11時を過ぎ、本来なら寝なければ明日の練習に差し支える時間だ。しかし、私たちは何処にでもいる高校生であり、隠し持ったゲーム機を持ち寄り、時間を忘れてそれらに没頭した。

 あの日、私は時計を確認していたのでしっかり覚えている、夜2時を過ぎ長身が半ばを越えようとした頃、急に戸を開ける音がした。先輩たちは一人残らず寝てたはずである。私たちに混ざって龍を狩るために、先輩たちの部屋から抜け出して来た田中さん(仮称)が言っていたのだ間違いないのだろう。


 言い忘れていたが、この宿泊施設は二階建てである。一階は先輩たちが、二階は数だけ無駄に多い新入生一同が使用していた。

 屋内は引き戸しかないが、聞こえた音は明らかにそれではない。私たちは先輩の誰かが外に抜け出したか、戻ってきたのだろうと思った。

 後で聞いた話によると田中さん曰く、


「誰も外に出てないから、戻ってきたとかはありえない」


 だそうである。私たちは、ようやく遅くなった時間に気づき、ゲーム機を片付け寝る準備を始めようとした。田中さんはこのまま私たちの部屋で寝るつもりだったようで、毛布持参済みである。彼の近くにいた同級生を布団から押しのけた後、そこに寝転んだ。初めから元の部屋に戻る気は全くなかったらしい。


 きしっきしっきしっ


 階段を上る音がした。私含め全員が息を潜め、その音に聞き耳を立てた。もし、先生が宿直室から見回りに来たとすると、田中さんが間違いなく怒られるからである。

 新入生一同は証拠をすでに撲滅してはいたが、田中さんは私たちを道連れにかかるだろう。愉快な人ではあるのだが、そういう人なのだ。しかし、足音は数回聞こえたのみで、そのまま途切れてしまった。同級生の一人が、外に誰かいないか確認するために引き戸を開けてみたが、誰一人そこにはいなかった。


 次の日、興が削がれてそのまま寝てしまった私たちは朝の練習終了後、部長に集められた。部長は私たちにもとても優しいが怒った時はとても怖い。昨日の夜更かしがばれたのだろうかと私たちは身構えた。


「夜更かしぐらいなら許すけど、誰や昨日外に出たの」


 予想外の理由による説教だった。慌てて私たちは弁解をし、田中さんもフォローしてくれたため誤解は何とか解けたので良かった。まあ、夜更かしについて10分程説教はされたが仕方のないことだろう。殆ど怒られていたのは田中さんだったため、気が楽だったということもある。


 さて、私たちは説教が終わった後に、あの「足音」が何だったのか話し合った。幽霊なんてありえないし、先輩が私たちを怖がらせようと仕組んだことも田中さんがいるため考えにくい。実際、今までにネタばらしのようなこともなかった為おそらくないだろう。

 それでも、私たちは先輩たちが仕組んだこととして納得しようとしていた。しかし、


「あの時、足音って何回聞こえた?」


 誰が言ったのかまでは覚えていない。しかし、その言葉は私たちを動揺させた。例の宿泊施設は階段が10段以上ある。古い木造である為足音を立てずに歩くことはほぼ不可能だ。そして、昨日に聞こえてきた足音の回数は6回だった。つまり、足音の持ち主は途中で消えてしまったことになる。


「ってか、あの足音。結構近くまで来てたよな」


 確かに最後の方の足音は階段というよりも、廊下が軋む音であった。それも次第に近づいて来たのである。私たちの部屋に近づこうとするかのように。そして、危機感一つなく私たちは引き戸を開けてしまったのだ。


「俺たち、もしかしてその何かが入ってきて、それと一緒に寝てたんじゃねえの」


 本題は以上である。そして、いつもの余談で話を締めたい。

 高校生時代。私にはあまり友人がいたほうでは無いのだが、それでも数人程度は持っていた。その中に一人彼女持ちだったやつがいる。彼の彼女曰く、


「私には霊感がある」


 とのことで、友人も彼女といた時に何度かオカルトじみた経験をしたことがあるらしい。その日、確か私たちは大掃除の日で場所を割り振られ、件の宿泊施設の前を掃除していた。そして、私がこの体験を思い出し彼に伝えたところ、


「彼女とここを通った時、あいつが急に泣き出したことあるわ」


 と友人がぽつりと言い、建物の二階を、それも私たちが泊まった辺りをぴたりと指差した。たった今、話はしたが友人は細かい位置など知らないはずなのにだ。


「あの辺りに、やばいヤツがいるんだとよ」


 残念ながら同じ年に宿泊施設は取り壊されてしまった為、私は他に余談は持ち合わせていない。しかし、私は思う。施設が取り壊された後、「それ」は何処へ行ったのだろうか、と。

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