表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

稲荷神社

 君たちは今年、初詣に行ったのだろうか?おそらく、殆どの君たちは信心薄くも寒い中大変な思いをして参拝したのだろう。

 初詣と言えば年中行事の中でも最も重要な祭事であることは間違いない。それが原因なのだろうか、特に理由もないのに義務感を感じ行きたくなるのは私だけではないはずだ。

 さて、これは私が真夜中、一人寂しく初詣に出かけた時の話だ。一応、ジャンルをホラーにするつもりであるが、怖い話の持ち合わせなどハナからないので、ゆったりと気を楽にして聞いて欲しい。


 一月一日、家族全員が寝静まった真夜中、私は音を殺しこそこそと玄関の戸を開け初詣に出かけた。二日前からインフルエンザで38度を超える熱があり、家族に外出がバレると不味かったのだ。

 人は熱が38度を超えると、妙に活動的になるらしい。人は自己の熱に酔いでもするのだろうか、自分のふらつく足にすら、笑い転げそうになるほど、私の正気は失われていた。

 それでも、目的地にしっかりと着くのが人体の不思議である。徒歩で20分程、ようやく私は目的の神社に着いた。本来なら、さっさと参拝客の列に並んでお参りを済ませ、今も家族が熟睡してるであろう家に帰るべきだったのだろう。

 発熱がぶり返し、頭が次第に鈍る中で、屋台からイカ焼き1本と焼き鳥2本を買い、食欲をしっかりと優先させた後で私は帰り道へ足を進めた。すっかり書くのを忘れていたが、私がわざわざここまでやって来た理由は「イカ焼きが食べたい」、それのみである。神などはなから信じていない。


 さて、私の行った神社は近辺ではかなりの規模である。そして、大きい神社は別の神社を同じ敷地に持つ場合が多い。ふらつく足で、灯りもろくにない暗い参道を進むと、手入れが入っていない鳥居が目に入った。暗くて奥に何があるのかが全く見えなかったが、また別の神社があるようだった。私は特に何も考えず、興味本位で寄り道をすることを決めた。


 さらに、灯りの減った参道を進むと、狐を左右に従えたこじんまりとした社があった。商売繁盛で有名な稲荷神社である。デパートの屋上でたまにあるアレだ。

 周囲一帯誰もおらず、唯一聞こえるのは片手に持った、ビニール袋が擦れる音のみ。そう、確かに誰もいないはずだったはずなのだが。


 私は信心が薄い方なのは間違いないが、吉日にも関わらず誰一人寄り付かない、そんな稲荷神社に恐れ多くも同情をしてしまった。せめて、私だけでもと賽銭を用意する気になったのだ。渡木は社以上に古びてボロボロの財布を出し、小銭は既に無くなっていたため、なけなしの千円札を賽銭箱に放った。そして、食料を入れたビニール袋を地面に置き、二拝二礼一拝を行った。


 その時、強い風が吹いた。私のビニール袋がふわりふわりと浮く。きっと、私は狐に化かされたような顔をしていたに違いない。浮かんだビニール袋を掴み、中を覗き込むと、入っているはずの焼き鳥が消えていた。誠に摩訶不思議である。


 私は慌てて周りを見回したが何処にも焼き鳥は見当たらなかった。その時の私は稲荷様がお腹を空かれたのだろうとしか、思えなかった。狐は肉食なのだ。腹の膨れない紙よりは喜ぶのは間違いないだろう。楽しみにしていた焼き鳥を掻っ攫われ、ため息が漏れたが仕方がない。非現実の名残である空のビニール袋を片手に握り締め帰り道へ引き返した。たぶん、その時の私は笑顔だったのだと思う。


 本題はこれで終わりだ。後は蛇足で話を締めよう。私が家族を起こさないようにコソコソと家に帰った後の話だ。

 物音が立たないように、ゆっくりと玄関の戸を閉め、居間のソファーで唯一残ったイカ焼きを頬張ろうとした時、親の寝室から母が急に飛び出してきた。


「私の上に今、何かが乗っかった。」


 もしかしたら、「何か」が付いてきたのかもしれない。そして、今も「何か」は家に居座っているのだろうか。家の犬がやたらと私の部屋の隅を吠えるようになった。

 ご利益が得られるものなのか、それ以外のものなのかは今の所わかっていない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ