表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

I to sb.

drop

作者: kanoon

チャイムを鳴らす。


「いらっしゃい」


開いたドアから覗かせた君の顔を見ると、安心して泣きそうになった。



[何でもないことのように]



大好き。傍に居たい。

友達って立場を賢く利用する。

辛さと幸せと、半分半分。


「どうした?」

「急にごめんね」


何度か来たことのある彼の部屋。

彼の匂いが近くて、思わず涙が零れる。


「よしよし」


私が彼の家に行くのは、慰めて欲しい時だって彼も分かってるから。

ぎゅっと抱き締めて、あやすように背中を軽く叩いた。

その優しさに余計に涙が溢れる。

私の嗚咽が響く部屋に、彼の声がゆっくり浸食していった。


「今度さ、買い物行こうよ。俺が見繕ってあげる」


すん、と鼻を鳴らす。


「そうだなー。派手なのより明るいミルキーカラーの方が似合うかな」


私はぎゅっと服を握る。


「あ、でもたまには少し原色入れるのもいいかもね。考えておくよ」


背中を叩くリズムは変わらない。

温かい大きい体に包み込まれて、心地良い声のトーンが耳に入って。


「あ、映画でも見る?映画館でも、借りてきて見るでもいいよね」


想像して笑ってるのがわかる。少し明るくなる声に反比例して、私の涙は増した。


「今面白い映画やってるかなー。あ、ホラー系は絶対無理だからね!」


くすくす、と笑う彼。

泣きながら私も笑う。

その様子に彼は抱き締める力を少し強めた。


「後は、そうだなあ。まだ桜咲いてるかな?」


こくん、と小さく頷く。


「じゃあ桜祭りに行くか。何か買って、食べながら花見してさ」


もう平気だ。涙は徐々に止まっていく。

すん、と再び鼻を鳴らす。

それに気付いたのか、ぽんぽんと頭を撫でてきた。


「今、行ける?」

「うん」


顔を上げれば、彼は目元に長い指で触れてちょっと笑った。


「やっぱり赤いね」

「伊達メすれば大丈夫?」

「しなくても、夜なら平気な気もするけど」


そう言われたけど、私はメガネを鞄から取り出してかけた。


「ん、おっけ。楽しんで、嫌なこと忘れようぜ」

「そうだね。ありがとう」


とても優しい君が、大好きで。

だからこんなに泣いてしまう程苦しい。



「何食べたい?」

「焼き鳥とか?」

「いいよ。たこ焼きも買おうよ」

「うん」


カップルも、家族連れも、若者の集団も。

明るい顔して話したり、食べたり飲んだりしている。

すれ違うカップルに、良いなあって思ってみたり。


「今日は何があったの」


食べながら、ふと彼は聞いた。

いつもは聞かない彼の、些細な違いに戸惑う。


「学校?バイト?」

「ううん」

「家族?」

「違うよ」

「……男?」

「……」


何とも言い難い顔をする。彼は悲しそうな顔をした。


「……別れた。好きじゃなくなった」

「そっか。オンナノコを泣かせる男となんて別れて正解だよ」


でもすぐに優しく笑って、頭を撫でた。

誰より好きになってしまった。

他の男との別れも厭わないくらい。


「好きな人がいるの」


ぼつりと呟けば、彼は一瞬動揺する。


「好きって言っても、良いかなあ」


少しだけ酔ってきたのかも。

このまま告白出来そうな勢い。


「良いんじゃないかな」


顔が見れない。だけど言おう。

意を決して告げた。


「……が、好き」


息を飲む音。周りの騒がしさが遠くなっていく。


「ほんと?」

「うん」

「俺も好きだよ」


びっくりした、と笑った彼に、私も笑った。

信じられないね、こんな幸せな結果。


「よろしくね」

「うん、よろしく」



何でもないことのように傍に居てくれた君の傍に、これからも居よう。

今度は私が抱き締めるあげるから。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ