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【シーン】異形との死闘

作者: 樊城 門人

シーンを描写してみました。

とあるサイトに送付することになるかもしれんので、そのときは削除をば。



 かれは覚悟した。自分の死を、そして肉体の欠落を。幻惑的に射す月明かりは今やこの殺伐とした空間において、それを助長しているかのようにも思える。

 そういえば精神異常を英語ではルナティックと呼ぶらしい――やはりこんな夜は誰しもが狂気を宿すようだ。

 かれはそう思って額から流れる冷や汗を指ですくった。場に響き渡るのは何かが叩きつけられているかような衝撃音。それは眼前の扉からこの部屋へと侵入していた。


「ツイてねえな、こんちくしょうめ」


 右手にしかと握られた銃把に力を込めながら、冷ややかな笑みをかれは漏らした。首筋に滲む汗が黒いシミとなって青いドレスシャツを汚す。

 引き金にかかる指に感じるのは鉄の無機質な印象と重い張力だった。ゆっくりと回転式拳銃を持ち上げて、両手で銃把を握る。

 照準はいまだ激しい音を打ち鳴らす木製の扉へ。ぎしりと一部が歪んだ。蝶番の一部が花火のようにして弾け飛ぶ。

 引き金をそっとかれは絞った。すべての知覚がそこから這い出てくるであろうものに向けられ、時間までもが歪んだように思われた。

 どんっと一際大きな音がする。途端に扉が突き破られる。部屋へと入ってきた黒く蠢くものは確認するそぶりすら見せずに男へと突進した。


「地獄へ帰りやがれ」


 そう叫んだ途端に手元の拳銃が火を噴いた。向かってくる蠢くものの表面が破裂し、それはぐるりと横へ逸れていく。

 逃がすかとばかりにかれは素早く照準を合わせて、もう一発。銃声とともに放たれた鉛弾は惜しくも化け物には命中しない。

 悪態を付きながらかれは前へと走りだす。咄嗟に振り向けばもといた位置に化け物は飛びかかっていた。

 張力ももはや生死をかけた闘争の前では一切感じない。シリンダーが回転し、ピンが雷管を打った。

 盛大な発砲。化け物に穴が穿たれ――それは気味の悪い鳴き声を発するがいなや瞬時に地を蹴ってきた。

 近づいてくる化け物。太陽に照らされたかのようにすべてが鮮明になり、動きが緩慢になるのをかれは感じていた。

 ただ、黙って。かれは照準を付ける。ここであの化け物を射殺できなければ自身は永劫に闇夜を彷徨うことになるだろう。

 不思議な確信があった。悲壮な決意はすでに研ぎ澄まされた集中へと変換されている。ただ瞳と照星の先にあるものだけが全てだった。

 射線が一直線に化け物の身体を通過したとき、かれは絞った引き金を落とした。

 発射薬が燃焼して、鉛で構成された銃弾がその銃身から射出される瞬間に、かれは勝利の匂いをしかと嗅いだ気がした――。



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