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(7)ヴァストリアントゥオ、ラフゾイグ、3月4日午後5時03分

 遥か西の空、広大な砂漠に日が沈む。機影が一つ。フロイディア外相を載せたラルテニア9式兵員輸送機である。

 「はああ、ババ引いたなあ」とパイロットのクルールス、「ムルドスなんかに行かねばならんとは」

 ゲリラの捕虜になってしまう可能性がある。給料の割に危険な任務に、彼は不満を感じていた。

 「私のほうがもっと不満だ」と、外相は言いたい。しかし、彼は黙って落日を不快そうに見つめるだけであった。

 無線機から、やたらとRの発音がきついシルニェ語(フロイディアの公用語)ががなりたてる。

 「貴下は要撃された。われに従え」

 副操縦士と操縦士は顔を見合わせる。

 「逃げるが勝ち、か」

 「おい、待て」とヴィオング、コクピットに顔を出す、「私は彼らと話をしにきたのだ。逃げるな」

 パイロットは心のうちで舌打ちし、無線に答える、「こちら、フロイディア連邦外相専用機。誘導願いたし」クルールスは溜め息をついた、「あーあ。これでこの世ともお別れか」

 ラルテニア9式兵員輸送機はEG1ネザリエグ戦闘機に誘導され、セレペスの空港に着陸した。

 「来たか」ドン・ラップダンは待ちかねたように椅子から飛び上がった。

 「フロイディアのパイロットたちを全員捕らえて、国境へと送り届けよ。ただし、機体は接収せよ」

 外相は留まる。クルールスたちは、ジョンゴンたちに拘留され、四輪駆動車に乗せられていく。……一名、こっそり逃げ出した事に、誰も気づかなかったが。

 慌ただしく指示を出しながら、彼はヴィオング外相に近づく、「よう、久しぶりだな、元気か」

 「ええ、まあ」

 「うん、そうか。よし、みんなこっちに来ている。話を聞こう」

 「バチクラン人民委員長閣下も……ですか?」

 「いや」とドン・ラップダン、「彼はムルドスに残った。輸入した兵器を自分自身でチェックするのだそうだ」

 「輸入? どこから?」

 「秘密だ」ドン・ラップダンは仮設テントを指した、「さあ、あちらへ」

 仮設テントの中には、既に三人の男が座っていた。

 アルマラッシュ軍事人民委員、バジャール財務人民委員、レスネテプ思想統制人民委員である。

 「さあ、話してくれ」とドン・ラップダン外務人民委員。

 ヴィオング外相は入り口に近い席に座った。

 「結論から申し上げます。フロイディア連邦は、聖ユビウスの帝冠を分割譲渡するつもりはありません」

 「何?」

 「……というのは、表向きの話で、裏側の話としては、今年中にダバニア地方の領有を認めると……」

 「表とか裏とかじゃなくて、確約が欲しいのだけれどもね」とレスネテプ。

 「はっきりせんか、はっきり」とアルマラッシュ。

 「無理です」とヴィオングは答える、「今の段階では、はっきりしようがないです。女帝陛下が急死されないかぎりは」

 「あのさ」とバジャール、「こう思うのだが、女帝はこのさい関係ないのではないか。二十年前のヒゲステュング宣言によって、フロイディアはザゾ以南の自治権をティエムリアミュールに認めているではないか。ティエムリアミュールを継承したわれらジョンゴンがダバニユを支配してはならんのはなぜだ? それとも何か、フロイディアでは元首が交替するたびに約束を反故にするのか?」

 「フロイディアでは」とヴィオング、「ジョンゴンが継承したとは認めていないのです」

 フロイディアが承認したばかりのティエムリアミュールを、ジョンゴンはクーデターで倒した。ジョンゴンの自治を認めれば、強盗殺人犯に相続権があるという事態になる。

 「もう、議論が出尽くしてしまったな」とアルマラッシュ、「この話で三つの事が分かった。第1に、フロイディアはジョンゴンを認めていない。第2にフロイディアはジョンゴンを認めるべき誠意を持とうとしていない。ゆえに、第3に、われらジョンゴンは実力でダバニユを制圧すべきである」ヴィオングは疑問に思う。……こいつは、三段論法をやっているつもりか? 論理も結論も前提も、すべて無茶苦茶じゃないか。

 「アルマラッシュ軍事人民委員どの」とバジャール、「賛成です」

 「反対の余地がありません」とレスネテプ。

 アルマラッシュは宣言する、「われわれは3月中に、ダバニユを制圧する事を宣言する。なお、フロイディアの違約行為により、ヒゲステュング宣言でわれわれに保証した領土以上の広さの領土を要求する」

 ヴィオングは絶望的に両手を天にさしのべた。フロイディアはティエムリアミュールにザゾ以南を譲渡した。そのティエムリアミュールを滅ぼしたジョンゴンに、ティエムリアミュール全土の領有権を認めろ? 盗人猛々しいとは、まさにこの事だ。

 ヴィオングの動作を勘違いしたドン・ラップダンが分別臭くフロイディア外相に言う、「まあ、貴国にとっては不幸な出来事になったかもしれん。しかし、まあ、貴国が日頃から気をつけていればこのような事態にはならなかっただろう。その事を、政府首脳によく伝えておいてくれたまえ」


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