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(6)フロイディア、クロイゼドラウグ宮4階書斎、3月4日午後4時00分

 「どうも、遅れてすみませーん」

 「いえ、時間ちょうどですわよ」と女帝、扉が開くなり謝罪の言葉を口にした技術者をねぎらう。

 「そう、ちょうど、いま紅茶が美味しいように入ったところですのよ」と傍らレツォックマンに同意を求める。皇室主計局局長レツォックマンは笑顔で頷いた。が、眼鏡の奥の瞳は笑っていない。

 「スコーン(ヌロックス)はいかがですか?」と女帝、テーブルの上の、手作りの菓子をすすめる。

 「あ、これ好きなのですよ」

 「どうぞ、召し上がれ」

 「ところで」とレツォックマンは書類を鞄から取り出し、サランノ・アルトノーミに言う、「貴下のチームが製作・実験中の戦闘攻撃機211年式ですが、連邦行政委員会から通達がありまして……」主計長はアルトノーミが製図した図面を返す、「遺憾ながら正式に不採用となりました」

 王立学院製作所航空技研の主席設計技師サランノ・アルトノーミは、内心の落胆を表に出さなかった。

 「いやあ、そうでしょう。あんな役立たずでは、ねえ。しかも、おまけに単価は高くて400万フロイン(約十億円見当)はしますから、ねえ」

 「ところで」と女帝、「わが連邦には二つの軍部があるというのは、ご存じでしょう」

 「そうでしたっけ?」

 「連邦統合軍と、皇室を守る連邦近衛軍ですよ」とレツォックマンは不快そうに言う。

 「連邦近衛軍としては」とアンナ・カーニエ、「旧式の軍備を廃止していき、より新しい兵器を採用していかなければなりません」

 「そうでなければ、皇室を常に守るというお話になりませんものねえ」とアルトノーミ、同意する。

 「皇室は」とレツォックマン、言いたくなさそうに、「連邦政府の意向と関係なく、貴下の設計した戦闘攻撃機211年式を、連邦近衛軍に採用したいと思う」

 「え、ほんと?」

 「そこで、私が」とアンナ・カーニエ、「その飛行機の通称を決めたいと思うのですけど」

 「どうぞ、どうぞ」と設計者、「採用していただけるのなら、どーんな名前でもいいです」

 女帝は厳かに、誇らしく宣言する、「その名は、ヴェン・フロイディアーナ・イェーラハト」

 VF3?

 「あの……」とアルトノーミ、「確か、VFのシリーズは戦略爆撃機だったような気がするのですが」

 女帝は無言で頷く。

 「一応、戦闘攻撃機なのですけれども、ね」と設計者は念を押す。

 再び女帝は無言で頷く、「私は、『新しき、フロイディアの守護神』の名前に相応しいスペックだと信じていますよ」

 「相応しい働きをするかどうかは、疑問ですけれどもねえ。搭載兵装の一部は、未完成ですし……」

 「これ以上に相応しい名前はないと、すぐに実証されるようになると思いますわ。さあ、冷めないうちに、紅茶をどうぞ」


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