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(63)ヴァストリアントゥオ、東モルティア、3月22日午後3時22分

 シジャービー近郊ゼンシェラー。ヴァズクラディムルは椅子に座って、両手で頬杖をついていた。テーブルの上には2枚の図面。左はジペニア戦闘攻撃機ヒシ・イシキ・カイ。右は彼が設計したシセキヴン。

 「ふーむ……」……シセキヴンには、まだ、何か足りない。

 彼の思索は、ノックの連打によって中断させられる。

 「フロイディア艦隊が動き出しました!」

 実は、フロイディア軍は、ずっと動いていた。「動き出した」というのは、単なる誤認である。

 「分かりました」と彼は2枚の図面をそのままに、自室を出る。もはや、「高貴なるアンモンスの民族の命運」云々のための戦争など、継続できない。彼は、大首長ガノコホッシュに戦争の停止を、すなわち降伏を進言するつもりである。


 首長ジャドンガイは、ある程度のボルストン教(フロイディアの国教)についての知識があった。つまり、フロイディアの伝説『テオティワケン遷都』を知っている。フロイディアはヴァストリアントゥオ大総督府を設立したという。これは、「いかなる自治政府も、ヴァストリアントゥオに認めない。ヴァストリアントゥオの民は、すべて総督府管轄とみなす」という意味である。そうなれば、グラゼウンは破滅する。……そうさせてはならない。

 ヴァズクラディムルとジャドンガイは、ばったりと道で出会った。

 「ヴァズクラディムル、どこへ?」

 「あ、急ぎますので……」

 「だから、どこへ行くのかね?」

 「大首長に謁見を申し込みに」

 「まさか、お前、降伏を進言しに行くのではあるまいな? 無駄だよ」

 「無駄かどうか、やってみなければ分からないではないですか」

 「いや、無駄だ」とジャドンガイ、「大首長は、昨夜から行方不明と聞く」

 何?


 ヴァズクラディムルは、去って行くジャグドンガイを、見送った。……とりあえず、シジャービーで大首長を待つとしよう。

 だが、そのシジャービーには、既にコンパーヌ艦隊が攻撃を開始していた。まず、巡航ミサイルが、至近距離から市街地に襲いかかる。グラゼウン軍の車両は、なすすべもなく、片っ端から破壊されていく。


 旗艦ラゼティーユの後方、空母アルクランダルから、垂直離着陸機リュークラフが、編隊を組んで、発艦する。

 その後アルクランダルは、後退していく。艦橋に立つ司令オンクルーヴは、目をシジャービー上空に転じる。主神の娘の名を冠する垂直離着陸機は、華麗に舞ってグラゼウンの対空ミサイルをかわしながら、ナパーム弾を投下していく。

 「美しい……」とオンクルーヴ、呟く。自ら投下する炎の上で舞う、そのしなやかな動きは、鋼鉄でできているとは、とても思えない。……まるで、本物のリュークラフが、天を駆けているようだ。

 オンクルーヴ少将は右手を挙げて、降ろす。指は、前方。着弾・爆撃によって砂煙に覆われるシジャービーを示す。

 「半速、前進!」

 「もはや、水深は、あまりありません! 座礁するおそれが……」

 操舵手の抗議を、艦隊司令は無視する、「構わん! 半速前進!」

 操舵手は首を振って復唱した、「半速、前進……」

 巨大なスクリューが回転する。水は、川底の砂と共に、大きく撹拌される。艦底がつかえる。が……。


 そもそも、ラゼティーユは北極海沿岸でも活躍できるように、設計されていた。すなわち、艦首で砕氷できるようになっていたのである。いま、ラゼティーユは、その巨体に物を言わせて、流氷ならぬ川底を砕き割って、前進する。

 操舵手は首を振った。「前進は可能ですが、このままだと、砂に埋まってしまう可能性があります!」

 「構わぬ」と艦隊司令、「そうなれば、平和なときに掘り起こさせれば良い」

 操舵手は、また首を横に振った。


 ゼンシェラーからシジャービーに向かう、砂煙に覆われた道。ヴァズクラディムルは、上空を華麗に乱舞するリュークラフたちに、見とれていた。……これだ、これなのだ。シセキヴン戦闘機に足りないのは、この華麗さ、だ。

 フロイディアの垂直離着陸機に魅せられたヴァズクラディムルは、細い長身の両手を精一杯、天に差し伸べて、自らその領域に近づこうと欲する。


 地上に動きを見つけたリュークラフと、対空ミサイルを回避したリュークラフが、空中で衝突する。2機のリュークラフは、互いにからみあいながら、回転しながら落ちて来る。ヴァズクラディムルの方へと。

 飛行機の落下エネルギーが、ヴァズクラディムルの体を砕く。彼の巻き毛は、頭蓋ごと、周囲に飛び散る。大爆発。ヴァズクラディムルは巨大な炎の一部と化した。


 ゼンシェラーのジャムトン教寺院も、ナパーム弾の火炎を免れられなかった。僧正の上に、神像が崩れてくる。いな、寺院そのものが、崩れ落ちようとしている。僧正は、その目で死後の世界を見ることとなった。

 その場にいた尼僧長は脱出を図る。ドアを開けた。外は、火の海。思わず、彼女は目を手で覆おうとした。間に合わない。眼球が焼かれる。覆おうとした手が火を発する。尼僧長も、また、僧正の後を追う事になった。


 グラゼウン最後の空港、ゾンタラン空港から、最後の旅客機が飛び立とうとしていた。この非常時に飛び立とうとするのは非常識である。だが、彼らに、われわれボルストンの常識は通用しない。どんなに悪天候だろうと、飛行機・輸送ヘリコプターの正常なる運行を強要する。そして、もし、輸送媒体が墜落すれば、それは操縦者の責任とされる。ジペニアでは過失致死、フロイディアでは不可抗力行為致死の罪に問われる。だが、彼らグラゼウンの手にかかれば、極刑にされるのである。彼らを異常な民族と考えてはならない。それが彼らの文化なのだから。しかし、文化とは何と便利な免罪符であろうか。


 ゾンタラン空港には、戦場から離脱しようとする群衆でごったがえしている。旅客機は一機だけ。双発の小型プロペラ機、アンセックC204、10人乗り。これに乗ろうとしている群衆は千人超。だが、その数は、少しずつ減っていく。ゾンタラン空港は、空母アルクランダルとシジャービーとの中間にある。地上を逃げ惑う群衆は、シジャービー爆撃の帰途にある、爆弾を使い果たしたリュークラフの、格好の標的となっているのであった。だが、群衆としては、「数字を減らされる」よりも、アンセックC204に乗ろうとするだろう。


 そんな中に、技師グノド・ギャーンもいた。長距離ミサイルを開発した彼は、本来、ノワルダンに向かっていなければならない。彼は、職務を守るより、自分の命を守ろうとしたのである。極限状況下においては、当然すぎるくらい当然の選択といえよう(グラゼウン文化の者は、怠慢と謗るのであるが)。だが彼は、逃げ惑う群衆・背後から押し寄せる群衆の只中にあり、他の者たち同様、地面に倒れてしまう。そして、そのまま他の群衆たちに足蹴にされ、圧死する。銃撃を受けたアンセックC204が、ついに爆発。周囲の民間人数十人を、吹き飛ばした。


 シジャービーからノワルダンに向かう道、トデンサにて、瓦礫の中から、族長ヴォランジェが這いあがる。乗っていた四輪駆動車が砲撃を受けて転倒、瓦礫の中に埋まったのである。彼は、ノワルダンに向かおうとして、シジャービーに足を向ける。その瞬間、瓦礫に埋まっていた四輪駆動車の燃料タンクにコイルの火花が引火する。爆発。ヴォランジェの死体は、再び瓦礫に埋められた。


 族長補佐ヴォグドンは、消火器を片手に、「世界戦略ビル」の屋上に駆け上がって来た。彼は、屋上を見て、安堵の息をつく。庭園は無事だったからである。

 「世界戦略ビル」屋上には、グラゼウンがオイルマネーにあかせて作った「空中庭園」という庭がある。シジャービーの周囲は砂漠である。が、彼らは、自分たちの偉大さを周辺少数部族に示すべく、わざわざ巨額の金をかけてビルの屋上に大きな森林庭園を設けているのである。ヴォグドンは、その巨大な財産を守ろうとしたのである。


 貴重な緑は守られた。彼は一息つく。ふと見上げると、砂煙の向こうに青空が見える。静寂。フロイディア軍の攻撃も、一息ついたようだ。

 「このまま、フロイデントゥクへ帰ってくれれば良いのだが」

 そんな事は、あるまい、と悲観的に思いながら、ヴォグドンは視線を下に戻した。砂煙の向こうに巨大な影。……な、何だ?


 砂煙が晴れる。超巨大戦艦ラゼティーユが、その姿を現した。ヴォグドンは圧倒され、膝をつく。ラゼティーユは全九門の20キェニー主砲をシジャービーに向ける。


 艦橋で、司令は、にやりと笑う。眼鏡のレンズとレンズの間を人差し指で、くいと押し上げ、焦点をシジャービーに合わす。

 「主砲連続斉射、開始!」復唱は末端へと伝えられる。轟音。ラゼティーユの主砲が火を噴いた。

 1連射目は、高く飛び越えて行き、シジャービー北の郊外の荒れ地や砂漠に着弾した。2連射目でシジャービー北郊を壊滅させ、3連射目で「世界戦略ビル」北側を走る大通りを穴だらけにした。

 「撃ち方やめ!」

 補給を完了したリュークラフが、再びシジャービーに襲い掛かる。

 「よし、強襲揚陸艦をゾンタランとゼンシェラーに接岸させろ」

 もともと、ほとんど岸に接するように航行していた強襲揚陸艦が、接岸する。普通、上陸作戦というのは、かなりの危険を伴うので、兵士たちは嫌がる。だが、揚陸艦の兵士たちに悲愴な雰囲気は、ない。今回の上陸作戦は、「聖戦」というだけでなく、かなり有利な兵力差があったためでもある。そう、10倍はあろうか。

 上陸したフロイディア海兵隊は震え上がる。大部隊が彼らを待っていたからである。だが、彼らは、恐慌状態に陥る前に、国旗を確認する事ができた。エフレーデ紋章。トラシモクを制圧したラルテニア陸軍である。これで、兵力差は20倍。さらに、アマシーン丘陵のダバニユ方面軍が駆け付けて来て、30倍。イジェノン、ノワルダンを制圧した東部方面軍が到着、兵力差は40倍になった。


 リュークラフが、「世界戦略ビル」北側の道路にナパーム弾を投下する。大きな炎の帯の火柱が、道路の上を走って行く。火柱は、大きな火の粉となって四方に散る。その中の一つが、「世界戦略ビル」の空中庭園に落ちた。

 「うわわ」

 慌てて、ヴォグドンは消火器を拾いあげ、燃え上がる屋上の森林に消化液をかけようとした。その彼自身の体も燃えている。燃え上がっているヴォグドンは、のたうちまわる。火災のまっただ中にあって、空しく、噴射される消化液。焼け石に水とはこの事か。ヴォグドンは炎の中に斃れた。


 グラゼウンの本拠「世界戦略」ビルに、ラゼティーユの艦砲射撃は直撃していなかった。だが、至近距離に大型の砲弾が落ち、さらに、このナパーム弾の衝撃で、「世界戦略ビル」が崩れ始める。


 まず、ビルの壁に埋め込まれた獅子の石像の首が、崩れ落ちる。さらに、反対側の壁に埋め込まれていた山羊の石像が、落下する。


 九階。寝ぼけた顔に滑稽な眼鏡をのせたデヌーンと、皺くちゃの小男ヴィフォンは、崩れてきた壁の下敷きになり、その死体は八階に落下する。


 八階では、老獪なリスのような顔をしたエゾノホッシュが、きょろきょろと、その円い目を周囲に向けている。天井がエゾノホッシュの頭に落ちて来る。首の骨を砕かれ、エゾノホッシュの死体は七階へ。


 大首長を探していたジャドンガイは、七階から六階へ、階段を降りる途中だった。階段を支える柱は折れ、壁は崩される。ジャドンガイの体は外へと放り出された。真っ逆さまに瓦礫だらけの地面に落ち、ジャドンガイの頭蓋は砕かれた。


 五階。窓際の席で、ぼけっとしていたダンディンは(別に放心していたのではなく、彼はいつでも自席でぼけっとしていたのだが)、七階から落ちてきたガラスの餌食になる。重力加速度の恩恵を受けたガラスの破片は、ダンディンの顔を串刺しにする。ダンディンの死体は、彼の席ごと、外へ落ちた。


 五階の床が裂ける。侍従チェンツィーの体が落ちる。真下は、四階の謁見室だった。彼の体は、謁見の合図をする銅鑼に落ちる。撥のかわりに、彼の後頭部が銅鑼を強打する。昏倒したチェンツィーを落下する瓦礫が切り刻む。


 崩壊は、三階で止まった。だが、中の人間は、ほぼ全員が生き埋めになって、死んでいる。外のグラゼウン軍兵士たちは、ただおろおろとしているだけである。本拠地の世界戦略ビルが崩れた事よりも、ラゼティーユの艦砲射撃に恐れをなして逃げ惑っていたのであった。逃げる、どこへ? 彼らには地獄の特等席が相応しい。もっとも、崩壊していくシジャービーの「阿鼻叫喚の光景」を、地獄の鬼たちは「恐ろしい」と思うかもしれないが。


 上空を十数機の戦闘機が飛んで行く。戦闘機は爆装をしている。戦闘機はラゼティーユに向かった。

 「左舷!」

 オンクルーヴが左の空を見上げるのと、シセキヴンが五百キロ爆弾を投下するのとが、同時だった。ラゼティーユ艦橋は、数十発の五百キロ爆弾の爆炎に包まれる。……やったか?

 だが、艦橋は、しっかりとラゼティーユの上に載っていた。


 「一体、どこからシセキヴンが来やがったのだ?」

 トデンサは崩壊しているし、ゾンタランは海兵隊が制圧している。

 「まあ、良い。対空攻撃開始!」

 対空ミサイルと対空機関砲が連射される。ヒシ・イシキ・カイの防弾性を犠牲にして兵装と旋回性を上げているシセキヴンは、ばたばたと撃ち落とされる。

 「連射、停止」とオンクルーヴ、「あとは、海兵隊とラルテニア陸軍にまかせろ」


 フロイディア軍は廃墟と化したシジャービーに突入する。一際大きい建物(だった物)が、世界戦略ビル。海兵隊は世界戦略ビルに乱入する。


 現代カザポイス語で「六階以下、七階以上」と書かれたプレートが床に落ちている。エレベーターの行き先階数を制御しようというのだろう。もっとも、フロイディア兵に現代カザポイス文字が読める者はいなかったが。


 中は暗い。兵士の一人が、一計を案じる。ライフルの先に、銃剣ならぬ懐中電灯を装着したのである。銃口は、過熱する。銃剣ならまだしも、懐中電灯のような電気製品を装着するのは、部品耐用の観点から、あまり望ましくない。だが、彼らは名案だと考え、懐中電灯を装着する。銃口の先は、常に懐中電灯に照らされるようになった。

 「誰も残っていないみたいですよ」と、外のグラゼウン兵士を殺戮しつくしたフロイディア軍兵士の一人。

 「そんなはずはない」と伍長は応じる、「探せ!」

 彼らは、すぐに、地下に通じる階段を発見した。地下に降りる。階段の正面には、雑誌売り場とおぼしき店舗、服の店と思われる店舗があった。フロイディアの常識に反するこれらの店舗を、兵士たちは無視する。兵士の一人は、雑誌売り場にかけられてあった、女性の裸体写真を手に取る。

 「そんな物は、後だ。グラゼウン人を、砂賊を捜し出せ!」


 兵士はドアを蹴り開けた。銃口に取り付けられた懐中電灯が中を照射する。その小さい小部屋(倉庫)には、カーペットが積んであるだけだった。兵士は悪態をつきながら、その部屋を後にする。


 物音。「誰だ!」

 脅えてうずくまっていたナージェムが、懐中電灯に照り出される。銃声。ナージェムの死体は銃弾に貫かれて、横たわった。

 「こいつが大首長か?」

 兵士はライフルでナージェムの死体をひっくりかえす。

 「違うと思いますが」

 「じゃ、探せ。こういうとき、元首かそれに類するヤツは、どこかに逃げるか、真っ先に討ち死にするはずだ。つまり、どこかに隠れているはずだ」

 「酒場とか?」と兵士は、カウンターのあるバーを示した。それは、実はただの喫茶店なのだが、もちろんフロイディア兵たちにそんな事は分からない。

 「これは?」と伍長は、「母親(エドラマ)」とラッティア語で書かれた扉を示す。

 さあ、と一同は肩をすくめる。伍長は、ガラスのドアを蹴り破った。

 物が飛んでくる。中に隠れていた族長ティンマッシュが、プラスチック製のカップで応戦しているのである。そこはソイディア料理の軽食店だった。ならば、フォークかナイフを投げた方が効果はあると思うが、動転しているティンマッシュは、そこまで考えが回らない。機関銃の一斉射撃。ティンマッシュは血まみれになって斃れる。


 兵士はティンマッシュの死体に歩み寄り、その髭面を軍靴で踏み付ける。ティンマッシュの頭にくくりつけられた小さなカヌーを引きちぎろうとしたのだ。

 「赤いカヌーです」

 伍長は、そばにあった布巾で、カヌーを拭う。血糊が取れ、地の色がでる。

 「こいつも、大首長ではないな。どこにいやがる?」

 彼らは、近くにあった階段から外に戻ろうとする。だが、その階段が、入ってきた時とは別の階段である事に、気づかない。


 実は、大首長ガノコホッシュは、先日から、この階段に隠れていた。無慈悲にも、懐中電灯が、その姿を照らし出す。

 「いたぞ、撃て!」

 逃げるガノコホッシュ。その太鼓腹を銃弾が貫通する。腸をはみ出させながら、ガノコホッシュは外に出た。

 外で待機していたラルテニア陸軍は、大首長のカヌーを頭に乗せた老人が出て来るのを見た。

 「撃て、撃ち殺せ!」

 ガノコホッシュは八方から銃撃を受ける。彼は、口から血と歯を吐き出す。後頭部から銃弾が貫いたのである。眼窩から眼球がこぼれ落ちる。よろめきながら、彼は自分自身の眼球を踏み付ける。血まみれの雑巾のようになって、ガノコホッシュは瓦礫の頂上に、仰向けになって倒れた。


 ラルテニア国旗を手にした兵士が、瓦礫の頂上に歩み寄る。ふと、彼は気づいた。……手にしているのは、フロイディア連邦国旗ではなく、ラルテニアの国旗である。彼らはフロイディア兵として行動して来たのであって、ラルテニア兵としてやってきたのではない。

 だが、兵士たちは、だれも、そんな些事に頓着しなかった。皆、「構わぬ、行け」というジェスチャーをしている。国旗をもったフロイディア兵は、瓦礫の頂上へ歩む。

 瓦礫の頂上には、仰向けに、ガノコホッシュの惨殺死体が横たわっている。兵士は、自分の思い付きに、残酷な喜びを感じ取っていた。


 兵士は、大きく、国旗を掲げる。棹の下側の、尖った部分が、彼の目に映る。彼は、思い切り、国旗で、ガノコホッシュの死体を突き刺した。国旗は死体を貫通し、下の瓦礫に達する。


 一面、瓦礫の山。頂上には仰向けになったガノコホッシュの死体。その死体を突き刺して、たかだかと翻るラルテニア国旗。砂賊グラゼウンは、ヴァストリアントゥオから討ち果たされたのである。


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