(54)ヴァストリアントゥオ、タクジェト、3月15日午前7時15分
フロイディア軍の総攻撃が開始された。ゾガンジャル島にずらっと並んだ自走砲から砲弾が、雨のようにタクジェトに降り注ぐ。
ジェグズイの予想に反して、フロイディア軍は、その強大極まりない陸戦力をジェンティン地方に全力投入した。空爆主体の攻撃を予想していた彼らは、対空兵器を、所せましと並べていた。だが、それらは、全く無駄になってしまったのである。また、空港の整備も行われておらず、戦闘機・攻撃機は、出撃も不可能である。
ジェグズイは、当初、陸戦力の強い武装勢力だった。ところが、高価な戦闘機をジペニア商人に買わされ、軍隊の編成が中途半端になってしまっている。
ジェグズイ総統ゾンジャルは軍政ビルから走り出る。砲弾が瓦礫を巻き上げる中、彼は娼館跡に作られたシェルターに逃げ込んだ。彼は頭を押さえて震える。ブランド品で揃えた身なりも、埃や泥で汚れてしまっている。
外では、兵士が右往左往している。かつてセレシア属領時代に「ヴァストリアントゥオの法律を決定する」とまで言われた豪奢な建物は、着弾により、無残に破壊されていく。
自走対空ミサイル砲に着弾した。火だるまになったミサイルが、地上で暴れ、爆発する。逃げ遅れたジェグズイ民間人14人を殺傷した。
5階だてアパートに、着弾した。爆発の衝撃は、中の住人ごと、破片に分解して周囲に撒き散らす。避難もしていなかった彼らは、自分たちだけは安全だとでも思っていたのであろうか。砲弾の雨はアパートを軒並み崩していき、商店、阿片窟、娼館、ガソリンスタンドなどをも破壊していく。
ジペニア系ブドア教寺院にも着弾しはじめた。寺院の鐘楼が被弾する。鐘は、けたたましい音を立てながら、偶像の上に落ちる。偶像は倒れ、前で祈っていたジペニア人たちを踏みつぶした。聖域を意味する赤い門「トリー」も、砲弾によって吹き飛ばされる。
砲弾は、さらに奥のスラムに着弾しはじめる。5歳ぐらいの男の子たちが、遊んでいた(どのような神経だろう?)。着弾。後には2、3の焼け焦げた足だけが残った。
ジビエベを発進した東部方面軍のエフレーデ34ダンロットが、低空で東南東から侵入する。竜巻は、その名のごとく、地上の構造物を破壊の渦の中に叩きこんでいく。それこそ、ミルクの工場であろうと、学校であろうと、病院だろうと関係なく。いかなる建物も、500キロ爆弾やナパーム弾の餌食となっていった。
ゾンジャルは、崩れかけのシェルターの中で、震えている。……奴らの攻撃は、一体、いつ終わるのだ?