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(4)ザゾ警備軍陸軍司令部司令室、3月4日午後2時40分

 外相は、ただ一枚壁にかけられた肖像画を凝視していた。その肖像画の存在は、首都からのフライトの疲労・機内における過度の飲酒(ヤケ酒)による酩酊など忘れさせるほど、彼にとってインパクトがあったのである。

 「このお方は……先々帝、トナレイ陛下」

 「いかにも」とザゾ警備軍陸軍司令ラトス、ずんぐりした体を椅子に沈めて、口髭を撫でる。「先帝のトロウス陛下はご病気で、短いご治世を終わられた。しかも今上陛下は女性でいらっしゃる。元首が女性や短命なかたでは縁起が悪いと、本音では兵士たちが嫌がりましてね……。はっはっはっ」

 「では、先々々帝のガイウス陛下でも飾られてはいかがですか。大帝の名に恥じぬ立派な方だったらしいですし、かの超大国セレシアを滅亡させられた。そちらの方が兵士たちも喜びましょう」

 「まあ、私としては、そもそもそれが元凶だと思いますが。セレシアを滅亡させたから、旧セレシア領オゾヴィアや属領ヴァストリアントゥオ原住勢力たちの問題が出て来たのですからね……。あ、どうぞ、召し上がってください」

 ヴィオングは紅茶の匂いを嗅ぐ。妙な匂いがしたからである。彼は、一口含んで、顔をしかめる。

 「こちらの習慣で、紅茶にはエヴォルクとかマドラックといった香辛料を混ぜるのですよ」

 ヴィオングは思いきりむせた。香辛料が口に合わなかったのである。

 「しかし妙な話ですな」とラトス総督、「ヴァストリアントゥオ出身のあなたがこちらの料理になじめず、フロイディア出身の私がこちらの料理になじんでいるのですから」

 ヴィオングは席を立つ。「そろそろ滑走路の方へ」

 「まだ来やしませんよ」

 「私は、空港で待っていたい」

 「よろしいでしょう」ラトスは紙を渡す、「15時30分、3番滑走路に到着するラルテニア9式兵員輸送機が、閣下の乗る飛行機です」

 「行くのは良いが、撃墜されはせんだろうな」携行地対空ミサイルによる旅客機撃墜事件が、頻発していたのである。

 「ご心配なく。先方とは話をつけてありますから」外相はドアを開けた。「あ、送らせます。だれか。外相閣下を3番滑走路までお送りしろ」ラトスはカートを一束口に放り込んで呟く、「ふん、私服野郎め」

 電話の呼び出し音、「はい?」

 「ラトス総督閣下でいらっしゃいますね」電話の声は遠い。

 「そうだが」

 「ダバニユ方面軍司令のクレリックです。そちらにお願いした物資が、まだこちらに届いていないのですが」

 「届くも届かぬも、そちらの空港は砂嵐で閉鎖されているのだろうが」

 「砂嵐?」

 「そう。貴官からの電文第10245号によると、砂嵐のため、3月4日いっぱい、ダバニユ、シェルルードの両空港は閉鎖されるとある」

 「そんな電文は発行しておりません」

 「しかし、現に、ここに、君からの電文が届いているのだぞ」

 「妙ですね……」

 「まあいい、輸送機の都合がつき次第、そちらに物資を送る……。何だ、こりゃ?」

 「どうかされましたか?」

 「ラニムル・ウォッラにエッテチェルト? これ、戦闘機用の空対空ミサイルではないか」

 「その通りですが」

 「おいおい、砂賊のゲリラども相手に、空対空ミサイルが必要だとでも言うのか?」

 「ええ、そのとおりです」

 「なんだって?」

 「もはや、ヴァストリアントゥオの武装勢力は、単なるゲリラ組織じゃないのですよ。戦闘機、爆撃機、どうかすると駆逐艦まで持っているやつがいますからね」

 「それって、砂嵐より危ないではないか。そのような所に輸送機を送りたくないな。物が物だけに、空中投下は避けたいし」

 「それゆえ、陸軍工作隊をお借りして、グラーシュ近辺に滑走路1本の空港を仮設いたしました。そこまで運んでもらえれば、当方の輜重隊で対応できますので」

 「グラーシュ?」

 「ええ」

 ラトスは地図を見た。ザゾは大河イェダの北岸に位置し、グラーシュはその対岸に位置する小村である。

 「こんな所に空港を作ったのだな……」

 「ええ、グラーシュ・ダバニユ間の道路は整備されていますので、グラーシュまで送っていただけたら……」

 「よし、わかった。輸送機の都合がつき次第、グラーシュへ物資を送ろう」

 「よろしくお願いします」


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