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(47)ヴァストリアントゥオ、ジェンティン地方、ジェグズイ領クシベメフ要塞、3月11日午後9時50分

 地雷原の中を、そろそろと、兵士、対戦車装甲車が前進する。なだらかな斜面。右は急峻なヴィーデンツ山脈、左も美しい崖を誇示しているジェンティン山脈。そのちょうど中間点の緩やかな斜面を塞ぐジェグズイ軍のクシベメフ要塞は、地形的に難攻不落と言えよう。


 フロイディア軍は、位置についた。兵士が一人、後方の上司に向かって頷く。上司は頷いて、確認した。


 兵士は、今一度、地雷探知機の赤いディスプレイを確認した。右手前方、20メートル先、地下3センチ。


 彼は、物を投げようとして、地面をまさぐる。砂っぽい。手に取る石は、どれも小さい。兵士は、ポケットから自分のナイフを取り出した。狙いをつけ……ナイフを投げる。一同は、両手でヘルメットを押さえて、素早く地面に倒れ伏す。……ナイフは地雷の信管を直撃した。


 爆発。要塞のサーチライトが一斉に、地雷原を照射する。要塞から、機関銃の銃弾が地雷原に乱射され、時折、爆発音を周囲に轟かす。


 フロイディア兵は、対戦車ミサイルを要塞に向けて発射した。爆発。要塞はびくともしない。が、要塞の上で重機関銃を撃っていたジェグズイ兵を薙ぎ倒す。

 ジェグズイ軍は、12キェニー榴弾砲を発射した。着弾。フロイディア兵10名を夜空に高々と吹き上げる。さらに、もう1発着弾。装甲車4台が大破した。


 司令は、爆発音や銃声の中に、低い爆音を聞いたような気がした。赤外線スコープを上空に向ける……。ラルテニアの輸送機!

 「やったぞ」司令官は歓声をあげる、「作戦は成功だ!」

 何も聞かされていない兵卒たちは、何が成功したのか分からない。

 「がんばれ、あと少しだ」

 ……こんな遠くから機関銃を撃っていて、当たっているのだろうか? 兵卒は訝りながらも、機関銃を要塞に向けて乱射する。


 要塞では、ジェグズイ兵たちが、「突然の夜襲」に、右往左往していた。大規模な銃声にあわてて、でたらめに地上めがけて銃を乱射している。では、上空は?

 上空、4機の輸送機からは、空挺隊が次々に落下傘降下してくる。彼らは、夜間であるにもかかわらず、屋上パラボラアンテナのちょうど横に、着地していく。スパイが、要塞のレーダーの電源をカットし、空挺隊誘導用の時限ビーコンをアンテナに仕掛けていたのである。


 屋上のドアを蹴破って、空挺隊は中に突入する。そこは、ちょうど、司令官の寝室だった。ジェグズイ軍司令は、ベッドに座ってブーツを履こうとしていた。

 空挺隊員は、思わず、引き金を引いた。司令は銃声と共に後ろにのけぞり、血まみれの体をベッドに横たえた。


 「このバカ!」

 別の隊員が発砲した隊員に小声で怒鳴る、「ナイフを使えとあれほど言ったろう」

 彼らは周囲を見渡し、廊下をのぞいてみる。おそるおそる廊下に出て、ばっばっと前後、敵がいないかどうか銃を構えて確認する。……敵はいない。どうやら、要塞内部の銃声には気づかなかったようだ。


 彼らは、訓練どおりに、敵兵の後ろに忍び寄る。そして敵兵の口を手で押さえ、ナイフで急所を刺していく。


 空挺隊長オルテップ・ルートは、屋上から、じりじりと前進してくるフロイディア軍を見ていた。

 「まだか」

 「ええ、全員始末したとは思うのですが、確認に手間取っているようです」

 オルテップ・ルートは、何かが足りないと感じた。

 「あっ、そうか、あいつだ」何かにつけて「ババ引いた」と言う奴。なんという名前だっけ?

 「どいつですか?」と副官、心配そうに。

 「なんでもない」とオルテップ・ルート。


 「万事よし(リヤ・トウギ―ル)!」との下からの声が、副官に届く。副官は復唱した、「万事よし」

「よし」とオルテップ・ルート、「それでは、ちょっと地上部隊を歓迎してやるとするか」


 要塞からの銃撃が沈黙して以来、地上部隊は攻撃を中断していた。大音響が、要塞から轟きわたる。兵士たちが、思わず応戦しそうになる。クシベメフ要塞攻略部隊司令ドラヒル・ネレバックは左手を横に上げた。前進および攻撃をするなとの意味である。……先ほどからの大音響は、何かシンフォニックなメロディーのように聞こえたが?


 次の瞬間、炎と火花が要塞を包みこむ。ネレバック中佐の目は大きく見開かれる。……空挺隊の馬鹿野郎、要塞を爆破したのか?

 ネレバックの心配は杞憂に終わった。火花は夜空に高く舞い上がり、景気のよい爆発音と共に花びらのように散っていったのである。その際、「歓迎」の文字の軌跡を残して。

 「何……?」

 ネレバック以下数千の兵士たちは、壮大な花火にあぜんとする。シンフォニックな大音響に、大合唱が加わる。


  「いと高き蒼天に

   風の女神の笑みにて舞い上がるわが心あり……」


 地上部隊の兵士たちまでもが、合唱に加わる。


  「黄金なす陽光は暗雲を切り裂きて……」


 ネレバックの近くの兵士まで歌い出した。司令は、歌っている者を睨んだ。だが、睨まれた者は決まり悪そうにしながらも


  「雲居より光もてわれを照らせり」


 と続けるのであった。


 士官学校校歌「栄光はわれに」に合わせて、フロイディア軍は堂々と要塞に入場する。ネレバックは苦々しそうに「空挺隊の馬鹿野郎ども」と呟いた。


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