表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/71

(45)ヴァストリアントゥオ、フロイディア軍クショヴィール包囲陣地、3月11日午前11時10分

 陣頭指揮を執っていたダバニユ方面軍司令ナムリムの耳に、敵陣からフロイディア連邦国歌が近づいてくる。……敵陣?

 習慣的に、兵士たちは直立不動の姿勢を取る。

 「待て」とナムリム中将(彼は少将から中将に昇進していた)、「敵の謀略かもしれん」

 「で、ですが」

 ナムリム空軍中将は舌打ちして、兵士からアサルトライフルをひったくった。彼は銃を構える。敵陣から旗を押し立てて出てくる一団。旗は……連邦国旗。ナムリムは引き金を引こうとして、撃鉄を起こした。ジョンゴン兵たちは両手を自身の頭のうえに置き、必死になって覚えたてのフロイディア連邦国歌を歌っている。


 「フロイディアのダバニユ方面軍司令にお会いしたい」と旗持ちの横に立っていたドン・ラップダン。

 「全員を逮捕しろ」とナムリム。

 「そんな……!」

 「どうやって逮捕するっていうのですか」

 「装甲車にぶちこんで、フュンフェムへ連行せよ。そこに、収容所と法廷が設置されている」

 「私は、ジョンゴン共和国全権大使のドン・ラップダンである。私は、新人民委員長ジャスタックの命により、降伏をする。寛大な処置を願いたい」


 ナムリムは「全権大使」に近づく。

 「おまえか、ドン・ラップダンは」

 「いかにも」

 ナムリム中将は懐から、ザゾ総督府が発行した逮捕状をドン・ラップダンの前に広げた。

 「贈賄、武器不正行使、殺人共謀の容疑、および体制騒乱罪、違法集会結党の現行犯で逮捕する」

 「そんな! 私はジョンゴン人であって、フロイディア人ではない!」

 「違うな」とナムリム、冷たい笑顔をドン・ラップダンに向ける、「お前はジョンゴンなどという国の人間ではない。そんな国は存在しないのだ。おまえは、フロイディア領ヴァストリアントゥオの人間だ。したがって、お前にはフロイディアの法律が適応される」


 ドン・ラップダンはゲクセン語で呟いた。

 「唯一の神ジョングの怒りが、おまえに落ちるように」

 ナムリムがゲクセン語で応じた、

 「神は存在しない。あるのは、神の意志のみである」

 呆然としているドン・ラップダンの両脇を、兵士たちは取り押さえた。

 「引っ立てろ」

 ドン・ラップダンは、他の兵士たちと一緒に、装甲車の中に放り込まれる。装甲車は砂煙をあげて、東北東へ、フュンフェムの方へと去って行く。


 ナムリムは四輪駆動車に乗る。その貫録は、まるで30年前から陸軍を陣頭で率いていたかのように見える。……一体彼は、本当に空軍士官だったのだろうか?

 前方を凝視していたナムリムは、自分に注がれている一同の視線に気づいた。彼は右手をダッシュボードの上に載せ、芝居がかった動作で左手を高く挙げる。

 「全軍、前進!」

 戦車が、対空自走砲が、偵察車両が、歩兵たちが、要塞に殺到する。ナムリムは腕組みをする。砂利まじりの風を噛みながら、彼はささやかな勝利を充分に味わっていた。包囲陣のフロイディア兵たちは、ジョンゴン軍最後の要塞クショヴィールを、一兵も損なわずに陥落させた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ