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(32)ヴァストリアントゥオ、トゥパクセン川沿岸、シジャービー、3月8日午後5時20分

 大首長付き侍従チェンツィーは苦悩していた。ジョンゴンでスパイ容疑者の大粛清が開始されたからである。近日ジョンゴンから、グラゼウンへ逃げ込んだジョング教徒の引き渡し要求があるであろう。だが、大首長ガノコホッシュの性格から考えると、おとなしく引き渡しそうにない。ヴァストリアントゥオにおける諸部族の調和が乱されるであろう。

 フロイディアにとっては有利に進み、ヴァストリアントゥオ諸部族にとっては、不利に進むだろう。しかも、フロイディアはレーダーに映らない戦闘機を開発したと聞く。現在の、防空システムは、いずれも敵機がレーダーに映るという前提で作られている。もし、レーダーに映らない飛行機があれば、現在の高価な防空システムは無意味になってしまうのだ。

 会議室の扉が開く。チェンツィーは、中から出てきた技術者の方に歩いて行く。

 「族長」

 呼びかけられたヴァズクラディムルは無視して、ジペニア風のお辞儀をして、中の客人にジペニア語で話しかける。

 「では、物資の件、よろしくお願いします」

 ジペニア人は横柄に「ああ」と応じ、帰途を急ぐ。

 「族長」と再び、侍従が呼びかける。

 「はい?」

 「少し、お話しがあるのですが」

 ヴァズクラディムルは、会議室の中に残っている人物に聞いた。

 「ヴァジェミジェルさーん。まだ会議室使えましたっけ?」

 「いいと思うけど」

 「では、(会議室の)中でお話を伺いましょう」

 族長ヴァズクラディムルは上座側の中央の席に座っている。族長補佐のヴァジェミジェルは上座側の白板よりの席に座っている。侍従は、下座側の末席に座ろうとした。

 「あ、どうぞ、こちらの方へ」とヴァズクラディムル、自分の正面の席を示した。

 「実は、フロイディアの例の『レーダーに映らない飛行機』について、大首長が心配されていまして……」

 「ああ、あのVF3ね。でも、あれ本当にレーダーに映らないのでしょうかね」

 「全く映らないことはないと思うよ」とヴァジェミジェル、「あれ、写真があったでしょ。写真があるということは、目に見えるという話だよね。目に見えるということは、何らかの波長の光を反射するっていう話でしょ? だから、レーダーに映りにくいように電波が拡散する形に設計したり、電波吸収塗料の塗装をしたりしているみたいだけれど、レーダーの精度を上げれば、映るのじゃあーりませんか?」

 「いや、しかし……」侍従の反論は無視される。

 「ほほお」とヴァズクラディムル、「じゃあ、レーダー施設を増やして、レーダーで使用する電波を増やしていけば……」

 「うん。とりあえず、角度によっては、一瞬でも映る事があるのではないかな。まあ、レーダーを見ている人間が見逃せば終わりだがね」

 「いえ、大首長としては、わがグラゼウン軍もレーダーステルス性のある飛行機を持つべきだと、お考えのようなのです」

 「あ、そりゃ、無理だ」

 「でも、お二人は技術者でしょう」

 「いや、技術者は必ずしも万能というわけではないのですよ」とヴァズクラディムルが苦笑する。

 「でもですね」とチェンツィーは反論する、「ヒシ・イシキ・カイを攻撃機シウダイゼンに改造したヴァジェミジェルさんと、戦闘機シセキヴンに改造されたヴァズクラディムルさん。お二方の技術力があれば、難しくないと思うのですが」

 「チェンツイー、できるわけがなかろう」と族長補佐。

 ヴァズクラディムルは、もう少し柔らかく拒絶した。

 「侍従さんの仰せは、よく分かります。しかしながら、レーダーステルス機を開発するには、まず、電波吸収塗料が開発できるかどうかにかかってくると思うのですよね。まあ、残念ですが、そのような物を開発する時間もお金もないのではないかと。そりゃあ、作れと言われれば作ります。作りますけれども、お時間とお金をいただきたいのです」

 「……無理ですかね」

 「普通にやっていたのでは、できませんね」

 「私も大首長に言ってみたのですがね。『普通にやってできないのならば、普通じゃない方法を使えばできるのでしょ』と言われてしまいましたよ」

 族長と比較して、族長補佐の言葉はぞんざいだった。

 「チェンツィー。だからな、そんな応じ方をしたらいかんのだよ。ステルス機をわが軍でも開発するというのじゃなくて、地上のレーダー基地を充実した方が、より効果的だと進言するのだよ」

 「じゃ、そういうことで、お願いします」とヴァズクラディムル、退室しようとする。

 「あ、まだ、続きがあるのです」と侍従、呼び止める。「ジョンゴンで、一大粛清が開始されました。わが国への亡命者を引き渡すよう、要求されるかもしれません。どうすればいいでしょう?」

 「そんなの、知らないよぉ」と族長。

 「どっちでも、いいのではない?」と族長補佐、「大体、われわれがどうこう言う問題じゃないし、な」

 「わかりました。どうもおじゃましました」と侍従は退出する。彼は、結局、自分の望む回答を二人から引き出せなかったのである。


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