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(31)大陸極東、ジペニア帝国首都、ドンチン、3月8日午後1時(現地時間10時)15分

 タケ・ノリ幹事長は、徳利を傾けた。

 「あ、これはどうも」と御用作家のアラ・マキが受ける。

 「先生(センセイ)がた、ぱっとやってください」とカナ・シン副首相。

 御用作家たちは落ち着かない。「先生(センセイ)」という敬称には「先に生まれた者」の意味がある。自分たちより年上の副首相に「先生」と呼ばれるのは、変な感じがしたからである。

 政府系日刊紙「サンギョ・シンウェン」の記者まで、政治家から盃を受けている。

 「皆さんがたを呼んだのは、ちょっとお願いがあったからなのです」とサワ・キチ外相。「ヴァストリアントゥオ問題に関しては、しばらく静観していただきたい」

 「そんなばかな!」とヤマ・ナナ、「国家存亡の危機という時に!」

 タケ・ノリがなだめる、「いや、お気持ちはごもっともです。わが国は石油の約30パーセントをヴァストリアントゥオに依存しています。確かに石油供給が停止して、わが国経済が脅かされております」

 「なんだ、3割程度に過ぎなかったのか」とカナ・シン、「じゃあ、何も騒ぐ話ではないじゃないか」

 カナ・シンは比率の問題と思っているみたいだが、他の一同は、供給量の問題だと思っている。サワ・キチがカナ・シンの発言を無視して、続けた。

 「依然として、西方からフロイディアの大軍が、わが大東洋共栄圏および帝国領土をうかがっているのは変わりありません。フロイディアの軍事行動によってわが国の石油供給源が断たれたと非難する事は簡単であります。しかし、非難を受けたフロイディアがわが国に報復措置を取る可能性もあるのです」

 「つまり、言論界における反フロイディア運動を手控えろと仰るのですか」

 「あまり過熱させないよう、お願いしたいのです」

 アラ・マキは盃を手に持ったまま尋ねる。

 「政府としては、まさか、何も手を打たないわけではあるまいな」

 「ヨハマやチェンパの国内備蓄原油を大幅に開放する予定であります」

 「いや、そうじゃなくて、外交的あるいは軍事的な手段ですよ」アラ・マキは、じれったそうに左手を動かした。そのため、盃の中の酒がほとんどこぼれ出る。カナ・シンは何げなく、アラ・マキの盃に酒を注ぎ足した。

 政府指導者たちは、お互いの顔を見合わせ、サンギョ・シンウェンの記者の顔を見る。

 記者は頷いた。

 「わかりました。私は、聞かないことにいたします。私にお気遣いなく」

 「わが国は既に軍事行動を取っています」

 ヤマ・ナナは酒を吹きこぼす。サンギョ・シンウェン記者は盃をぽとりと落とし、アラ・マキは閣僚をぽかんと見つめた。

 「いや、まあ、単なる牽制なのですがね」とタケ・ノリ。

 カナ・シンは突然、笑い出した。

 「しかし、実態を知ったら、誰も牽制とは思わんだろうな。どこからどう見ても大規模遠征部隊だから。まあ、これじゃあ、大反撃されても文句は言えんわ、わっはっは」

 「笑いごとじゃないですよ」とヤマ・ナナ。

 「もし、フロイディアが核兵器で報復してきたら、どうするのです?」

 「核兵器には、核兵器で対応するしかありません」とタケ・ノリ。

 ……非核三原則はどうなった?

 サワ・キチは驚いたような顔をして、前に乗り出した。

 「まさか、皆さん、非核三原則なんてなたわごとを信じていらっしゃるのじゃありませんでしょうね?」

 大前提を否定されて、彼らは何も応じる気力を失った。しかし、政治家たちは、作家や記者が共通の認識に立ってくれていると誤解する。

 「まあ、彼らが使わないかぎり、われわれ側からの核攻撃はしない予定ですが」

 「いずれにせよ」とタケ・ノリ、「ヴァストリアントゥオの諸民族に対しては、積極的な武器援助を惜しみません」

 「まあ、皆さんがたには」と副首相は締めくくる、「わが軍が国外で何をしようとも、見なかったことにしていただきたい」


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