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(26)ヴァストリアントゥオ、シェルルード、3月7日午後03時00分

 第1飛行師団第2飛行大隊の兵士たちは、憂鬱な気分になっていた。旧式の要撃機EG7ゴルフェンに代わって、ザゾからのエフレーデ34と交換するのである。本来ならば、戦力の強化を喜ぶべきである。しかし、ゴルフェンをザゾへ運ぶパイロットに問題がある。一人、どうしても自分で操縦すると言ってきかない者がいたのである。クレリック中将その人である。

 クレリック中将の、飛行機の操縦の拙劣さには定評があった。「よく墜落しないな」と言われている。フライトシミュレーターで着陸試験をしたとき、3回やって3回とも着陸に失敗している。横風に対して適切な傾斜角を取れないのである。空軍にいるのは何かの間違いとしか思えない。

 「退役して、自動車の整備工にでもなる」と本人はうそぶいているが、編隊を組まされる方にとっては、たまったものではない。「どうしてまた、中将閣下は、ご自分で操縦するなどという気まぐれを思い付かれたのであろうか」と隊員たちは溜め息をつく。だが、気まぐれではなかったのである。

 クレリック中将は、地図の上に紙を広げていた。他人が見れば、イニシャルの羅列にしか見えなかっただろう。だが、それは、クレリック中将が個人的に調査した、フロイディア軍に渦巻く陰謀の相関関係図だったのである。

 Nは、元首席ノタンノスであろう。Yは、クレリック中将自身を示すと思われる。彼の名前ナトラムが、聖地ネアーレンスの川ヤムトランに発音が類似するので、Yと呼ばれるようになったと思われる。Mは、ザゾ総督の周辺の誰かである。Nからの指令で、Mはニセ電文を発行し、パンジオ・ヴィオング元外相を、ジョンゴンの元へと直接送り届けた。さらに、Mは、Nの指令により、ザゾに向かうLを暗殺しようとしている。最初、彼はLが誰か分からなかった。が、昼のニュースで女帝がザゾに向かうと聞いたとき、彼はLが誰だか分かったのである。そう、Lとは、女帝の旧姓ラルガインの頭文字。ノタンノスは、なんと、女帝アンナ・カーニエを暗殺しようとしているのである。彼は、ザゾ総督その人に、陰謀の存在を知らせようとしていたのである。

 「クレリック中将」ラバシーン少尉が、そばに立っていた、「離陸許可が出ました。いつでも出発できます」

 「よし、じゃ、行こうか」

 クレリックはゴルフェンを滑走させ、機首を上げた。……上げ過ぎる。後ろで見ている他のゴルフェン操縦者は気が気でない。かろうじて、失速せずに離陸した事を確認して、他の14機も、次々に離陸して言った。

 「こちら、ラバシーン。機体の電気系統がおかしい」

 「どのように、おかしいのだ、レーダーでも故障したのか」とクレリックからの無線が入る。

 「迎撃システムに異常があるようです」ラバシーンは空対空ミサイル、ノリ・イェブのスイッチを入れる。照準器に緑色の十字が浮かび上がる。彼は、十字の中心にクレリックの操縦するゴルフェン1番機を捕らえた。

 「空対空ミサイル、ノリ・イェブの発射装置のランプがオンになっている!」彼は、自分で、発射装置をオンにしていく。「制御できません。ミサイルは発射態勢にあります」ミサイルはゴルフェン1番機にロックオンされる。

 「中将どの、危ない!」ラバシーンは操縦桿のミサイル発射スイッチを押した。ミサイルは発射され、クレリックを襲う。

 「うわあ!」もともと飛行機の操縦が苦手な彼に、赤外線追尾装置をつけた空対空ミサイルを振り切って逃げ切れるはずがない。ミサイルの一発は左翼に、もう一発は右側エンジンに命中した。ゴルフェンは火だるまになって、落ちて行く。

 「中将どの!」ラバシーンは白々しく呼びかける。……既に焼け死んでおるわ。

 ラバシーンの顔はひきつる。操縦桿が効かなくなったのだ。……まさか!

 彼の乗るゴルフェンの両翼から、白い煙が吹き出す。「操縦がきかない!」無線機も機能していない。コクピットに仕掛けられた小型テープレコーダーが、一瞬だけ作動する。

 「ごくろうだった。君の役目は、もう終わった」

 Mめ、私まで消すつもりか!

 彼は脱出用のコクピット射出装置を操作する。……当然、動かない。彼は、自分で風防をこじあけた。コクピットは火に包まれる。彼は外に飛び出した。パラシュートが開かない。「うわあああっ」

 他のパイロットたちは、皆、蒼ざめている。自分たちの乗っている飛行機は旧式である事を充分承知しており、自らがそのような目にあうかもしれないと思っていたのである。


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