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(24)ヴァストリアントゥオ、シェルルード、3月7日午後02時00分

 バイタム・ホテルのロビーは、フロイディア人でごったがえしていた。シェルルードはジョンゴンの攻撃にさらされている。せめて安全なザゾへ避難しようにも、飛行機が出るあてはない。シェルルードや、ダバニユの空港からは軍用機も民間機も、輸送機は欠航になっている。グラーシュの新空港に駆け付けた何人かの幸運な者は、救援機に乗って、ザゾへと避難した。だが、乗りそこなった者は、シェルルードやダバニユに戻らざるを得なかったのである。

 「だからさ、もう1日宿泊延長、たのむよ」

 「申し訳ありません。既に、ロイヤルスイートも満室でございまして、ご要望には沿いかねます」

 「そこをさ、なんとかして欲しいなあ」

 「おい、ティムスではないか」

 ティムス記者は声のした方向を見る。「おお、トロンフォック!」トロンフォック記者は、床にへたりこんでいるフロイディア人につまずきそうになりながら、ティムスに近づく。

 「こんな所で、どうした?」

 「本当に、『こんな所』で、どうしちゃったのだろうなあ。編集長に『宿泊施設は手配済みだ』とか言われてさ、ダバニユまで来たのはいいけれども、こんな騒ぎに巻き込まれちゃってさ。部屋は、今日までしか取ってなかったのだよな、編集長は。で」とフロントに掛けられた時計をオルテップは指さす、「チェックアウトだって言うので、宿泊延長を頼んだら、『だめだ』って言いやがるのさ」

 「本当に申し訳ありませんが……」

 「妙だね」とイリウス、「ぼくは、1か月分、ツインを一つ取っているけどね」

 「おまえね……」

 「お名前は?」

 「イリウス・トロンフォック」

 「ミドルネームは……?」

 「ないよ。そんな、女帝陛下みたいに、聖人の名前を二つも名乗れるかってえの」

 フロントはコンピューターを操作した、「ええ、たしかに、1月分お取りいただいておりますが」

 「おまえ、まさかとは思うが……」

 「うん? もちろん、経費だよ、経費」

 「おまえ、しまいにクビになるよ……」

 「大丈夫だって」トロンフォックはフロントの方を向く、「あ、そうだ。ところで、こいつ、ぼくの部屋に入れてくれない? ツインだからさ、何とか入るでしょう」

 「お客様、それは困ります」

 「なんとか頼むよ」とトロンフォック、1フロイン札をフロントの手に握らせる。フロントは、その1フロイン札をトロンフォックに返した。

 「本当はいけない事なのですよ」彼は、コンピューターのキーボードを操作する、「お連れさまのお名前は?」

 「オルテップ・ティムス」

 「……苗字は?」

 「だから、ティムスだってば」

 「では、イリウス・トロンフォック様、オルテップ・ティムス様、1か月分、ツインでお取りいたしましたので」

 「ありがとう」とイリウス・トロンフォックは1ミトリムのコインをフロントに渡した。「ああ、どうも」とフロントはチップを受け取った。

 「本当に、おまえって要領が良いなあ。おれなんかよ、ディアモン経由のコンパーヌ経由で、しかもエコノミークラスでよ、だあ、参っちゃったよ、本当に。ところで、ロジェタは変わりないか?」

 「うん、特にないよ」

 「うん、そうかそうか」

 イリウスは、ひきつった笑みをもらす、「ところで、部屋で何か飲むかい?」

 「そりゃ、ありがたい」二人はエレベーターに乗って行った。

 「ナトラム・クレリックの馬鹿野郎はどこだ!」

 額に包帯を巻いた兵士が怒鳴る。「ちくしょう、ここにもいないか。一体、どこで油を売っていやがる……」彼は、あと3か所で同じ台詞を吐いて、シェルルードの司令部に戻った。

 「その馬鹿なら、司令官室に戻っているよ」と陸軍の兵卒が答えた。

 ノックもせずに、額に包帯を巻いたトイルタップ・ナムリムが司令官室に入って来た。

 「司令官閣下、一言言わせていただきたい。今回の閣下の作戦計画は、ちと無謀といえる代物でございましたぞ」

 「否定はせぬ」とナトラム・クレリック。

 「……それだけですか。爆撃機2個大隊が全滅して、私の部隊のVF1が1機のみが帰って来ただけだというのに、それだけですか」

 「輸送態勢は混乱しているのだが、こういった物だけは、前線に届くようだ」とクレリック中将は小さな箱を取り出した。「タスパロフ勲章だ。そう、君の、今回の功績に対して、与えられた物だ」

 彼はナムリムの胸に勲章をつけてやろうとするが、ナムリムは勲章を手で掴んで、ポケットの中に入れてしまった。

 「それと、今回の功績で、君は2階級特進が決定したそうだ。ナムリム少将」

 「そんな物くれるよりも、部下を返して欲しいですな」

 「そうわがままを言うな。……それと、辞令だ」

 「ダバニユ方面軍の副官?」

 「そう。私の身に何かあったら、そのときは、君が司令官だ」

 ナムリムは辞令を凝視する。クレリック中将はナムリム少将の肩を叩き、「私は、ザゾへ行って来る。後は、よろしく頼む」と、司令官室を出た。


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