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(22)ヴァストリアントゥオ中北部、シジャービー、3月7日午前11時00分

 グラゼウン世界戦略ビル4階謁見室に、銅鑼の音が響き渡る。

 ずんぐりした男が、右手で左の肘を、左手で右の肘を持ち、体を揺すりながら入場する。

 男は、最高位を意味する、赤い小さなカヌーを、頭にくくりつけている。首には蛇の形をしたマフラーを巻き付け、服の背中を孔雀や烏の羽根で飾っている。男が両肘をゆらすごとに、袖につけられた鈴の束が、「しゃらん、しゃらん」と音を出す。男は、自ら奏でる鈴の音に合わせて、がこん、がこんと、規則的に木靴を前後させて、歩く。男は、至って神妙な顔付きである。だが、その顔は、両性類か爬虫類を思わせる。異文化の者ならば、サーカスの道化が現れたと思うだろう。だが、彼は、グラゼウン・アジャーカン・エテダレグ(大首長国)の元首、すなわち大首長である。

 大首長ガノコホッシュに続いて、首長エゾノホッシュと首長ティンマッシュが続く。……通常は、首長、族長あわせて10人以上続くのだが。訝りながらも、侍従チェンツィーは謁見開始の合図の銅鑼を叩く。

 二人の首長は床にあぐらをかいて座り、天を仰ぐように平伏した。だが、異文化から来た二人の客人は、首長の真似をしない。……ガノコホッシュは不快に思った。

 「座られよ」

 ガノコホッシュは、ジェグズイとジョンゴンの代表に、横柄に呼びかける。二人とも踵を返して帰ろうかと思うが、我慢した。二人とも、マットも何も敷かれていない床に、あぐらをかいて座った。

 ジェグズイ独立戦線スポークスマンが言う、「わがジェグズイは、ロジェタの領有権を、グラゼウンに献上する用意があります。その代わり、バショーイに駐屯しているグラゼウン軍を撤退させていただきたい」

 鼻に抜けるような口調で、ティンマッシュが反論する、「ロジェタのグラゼウンへの献上、しかとお受けしよう。しかし、バショーイは我が国固有の領土であり、譲渡するつもりは、毛頭ござらん」

 「しかし、ゾガンジャル島は古来、わがジェグズイ領有の……」

 「否」とエゾノホッシュ、「バショーイ以南のゾガンジャル島は、わが神聖なるグラゼウンの領土である」

 「……ジェグズイにとって、ゾガンジャル島への交通拠点として、バショーイは是非とも必要である」

 大首長は、赤、青、緑の三色の渦巻きが描かれた団扇を高く掲げる、「バショーイはグラゼウンの領土である。しかし、ヴァストリアントゥオの安全保障のため、ジェグズイ軍の通行権を認めるものとする」

 「しかし……」

 ジェグズイをグラゼウンに仲介したジョンゴンの外交員はスポークスマンに耳打ちする、「そのくらいで我慢しておけ」

 スポークスマンは、こっそり舌打ちし、小刻みに顔を前後に数回動かす。「それでよろしいでしょう」

 さらにスポークスマンは提案する、「これで、ヴァストリアントゥオの勢力線は画定されました。ジョンゴンは北部ヴァストリアントゥオを、ジェグズイはバショーイ以北のゾガンジャル島を、グラゼウンは中部および南部ヴァストリアントゥオを支配いたします。そこで、われら三国で、フロイディア排斥宣言を採択してはいかがでしょう」

 「うむ、それは良い」

 「フロイディア軍は、今朝、西へと向かっていたわが軍大部隊を壊滅させた。ヴァストリアントゥオから、フロイディアを追い出すべきである」と大首長。

 「早速、宣言文を用意いたしますので、後ほど、ご署名をお願いいたします」

 「うむ」とガノコホッシュ、団扇を掲げて仰ぐまねをする、「余は満足じゃ」


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