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(19)フロイデントゥク、インセワ公園、3月7日午前7時30分

 帽子を深くかぶった初老の男は、しょぼくれたコートを着て、公園のベンチに座っていた。男の団子鼻から白い息と鼻水が垂れている。どこからどう見ても失業者といういで立ちの彼は、レゲム・ノタンノス、元連邦行政委員会主席である。もう一人、頭髪の薄い老人が、何食わぬ顔をして、ノタンノスの隣に座った。Wである。

 「何か用かな、N」

 「アンナ・カーニエが、ザゾへと向かいます」

 「うむ。そうらしいな」

 「もう、私は直接、組織の人間に連絡をとることができません。連邦内閣から追い出された今となっては、連邦内閣を通じた軍部への連絡が、やりにくくなりました」

 「だからといって、毎回、私に連絡を依頼してはなるまい」とW。

 「ええ。今回は、そちら側の手を煩わすようになりますが、毎回頼むとなると、危険です。何か、良い手だてはないでしょうか」

 「君は、内閣主席時代に、結構金を貯えていなかったかね?」

 「ええ……、まあ。金を貯えておくよう、指示を受けましたから」

 「その金を、今、使いたまえ」

 「え?」

 「ノタンノス財団を設立するのだ。そうすれば、我々の側の企業家を参画させられる。その企業家を通じて、軍部と連絡を取れば良い」

 「わかりました。今日にでも、銀行と話をつけましょう」

 「で、組織への連絡というのは?」

 「ええ。2件あります。2件とも、われらが同志M宛でお願いしたいのですが。中立のYが、どうやらM周辺の陰謀に感づいたと見られるフシがあります。注意するように、お伝え願います。もう一つ、アンナ・カーニエがザゾに向かう。手配をよろしく頼むと」

 「暗殺か。今度こそ失敗しないだろうね」

 「たとえ失敗しても、今回、われわれは関係ありません。……失敗したら、自分の命が危なくなると、Mにお伝えください」

 「わかった」とW。前方を凝視したまま。

 ノタンノスはWの視線を追う。男女が視界に入る。若い男女は、早朝だというのに、抱き合い、激しいキスを続けている。ノタンノスは首を横に振った。

 「最前線では、我が国の兵士たちが倒れつつあるというのに……」

 「この辺りも変わったな」とW、「ここらへんは、一帯、兵士たちの練兵場だったのだが」

 「一体、いつの話ですか」

 「30年以上前の話だ。まだ、この首都がラモキエリユと呼ばれていた頃の、な」Wは立ち上がる、「さて、Mに連絡をつけるとするか」


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