弱小ヒーラー、仲間と旅に出る。
「誰だお前は。―――ふん、ジェイスが軟禁している魔法使いか」
魔王城の室内訓練場で魔力を集中させている時だった。
スタイリッシュな黒い鎧に身を包んだ背の高い女性が静かに入ってきて、やや粗めの口調で私に声を掛けた。
癖のないサラサラな艷やかなワインレッドの髪は高い位置でひとつに束ねられていて、黒曜石のような漆黒の瞳からは意思の強さが感じられる。
美と強さを兼ね備えた女性を目の前に、私は言葉を発することさえ忘れてしまった。
「私はブレア・ローズブレイド。この城の番人をしている。剣術使いだ」
「かっこいい・・・ わ、私はオリヴィア・ノールズ。回復専門の魔法使いです」
女性の剣術使いは珍しいため、私は目を丸くして驚いた。こんなにかっこよくたくましい女性と出会えるなんて、魔王城万歳。
「回復専門? 攻撃はしないのか?」
「実は攻撃魔法が使えなくて、・・・練習中です」
「そうか。お前、さっき私のことかっこいいと言ったな?」
「はい、とてもかっこいいです! ブレアさんから溢れ出る力強く美しいオーラに圧倒されそうです!」
―――いけない。美しいものを見ると興奮してしまう癖が出てしまった。初対面なのに失礼なことを口走ってしまったかもしれない。
ブレアは私の興奮気味な早口な口調にぴくりと反応を見せた。
「ふん。 ――――(何この子、めっちゃかわいぃぃいい〜。ちょっといじめちゃおうかな〜って思ってたけど、予定変更!)
―――私もお前の特訓に付き合おう」
「え!?ありがとうございます!」
ブレアは壁に寄り掛かると真剣な顔付きで「健闘を祈る」と言った。
その後はとくに魔法のアドバイスを受けることもなく―――
何時間経っても成果が出ず落ち込む私に、ブレアはひたすらクールな表情で励ましの言葉を掛け続けるのであった。
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「オリー、きみ、過去に封印魔法をかけられてない?」
昼下がりの穏やかな訓練時間―――
魔王が突然そんなことを言い出した。
「封印魔法?」
「あぁ、攻撃魔法が出せないのはセンスの問題じゃない気がする」
封印魔法とは特定の力を制限・無効化する高レベルの魔法だ―――。
魔王のように危険な相手に使うのなら分かるが、何故私に?
本当に私の攻撃魔法が封印されているとしたら、魔法をかけた本人にとって私は危険な存在だったのだろうか。
「どう思う?オリー」
私は・・・ 心当たりがあった。
「・・・小さい頃の記憶がないんです」
「それは、怪しいなァ」
そう、私には空白の過去がある―――。
ある日、目が覚めたら見知らぬ施設のベッドにいた。
何故自分が眠っていたのか、今まで何をしていたのか、何ひとつ思い出せなかった私はしばらくの間得体の知れない恐怖心に駆られ自室に引き篭もっていた。
未だに両親の顔も自分が住んでいた場所さえも思い出せない。
きっと私にとって大切な部分だけ切り取られている。
だから、空白の過去に誰かに封印魔法をかけられている可能性は、ある。
「きみに呪いをかけたひどい魔法使いを探そう。 封印魔法はかけた本人しか解けないからねぇ」
長い前髪の隙間から私を見据える魔王の瞳からは強い思いを感じた。いつものような冗談を言っているわけではなく、本気だ―――。
「―――探してくれるの?一緒に?」
「あぁ、エリクとブレアも一緒だ」
魔王に拉致され早一ヶ月。
私は勇者パーティーならぬ魔王パーティーの一員となり、彼彼女らとともに私の攻撃魔法を封印した魔法使いを探す旅に出ることとなった―――。
魔王が旅に出ると言うのはおかしな話だが、この男ジェイス・ブラックウッドは自由奔放だから気にもしないのだろう。
史上最強の魔王と氷の魔術師、加えて女剣術士と、回復専門の魔法使い。
心強いチート級のメンバーとともに私の新たな旅が始まろうとしていた。
いつか魔王が私に飽きて、ゲームオーバーになるだろうと覚悟はしていたが、それはまだまだ先の話になりそうだ―――。
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