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弱小ヒーラー、魔王の従者と対面する。

静寂な夜―――

魔王の部屋には一人の従者が姿を現した。

男の名はエリク・ハーヴィー。氷魔法を得意とする魔術師である。

エリクは眼鏡のつるに片手を添えながらコホンと咳払いをした。


「魔王様・・・

勇者パーティーのヒーラーを誘拐して遊んでいると城内で噂が広まっています」


「あながち間違いではない」


魔王は低音で落ち着いた声を室内に響かせる。厳かで堂々とした雰囲気を漂わせる姿は、オリヴィアの知る魔王の姿ではなかった。


「そろそろゲームオーバーにするのはいかがですか?」


エリクは真剣な表情で魔王を見据えた。

()()()()()()()、それはオリヴィアを始末することを意味する。

魔王は顎に手を添えて何かを考えた後、厳しい眼差しをエリクに向ける。


「そうするつもりだったが、気が変わった」


「魔王・・・様?」


想定していなかった返答にエリクは戸惑いの表情を見せた。

魔王がいったい何を企んでいるのか、長年付き添ってきたエリクですら予想ができなかったからである。


頭を悩ませるエリクに魔王は追い打ちをかけるように口を開いた。


「正直に言うと、オリーのことが好きだ」


「そ、それは・・・ どう言った意味で」


()()()、敵対している相手を愛称で呼んでいる魔王には疑惑を覚えざるを得ない。

エリクの表情はかけている眼鏡がずれ落ちてしまうほど大げさに引きつっていた。

動揺を隠し切れないエリクとは対照的に、魔王は至って冷静だった。


「オリーをずっとここに閉じ込めておきたいんだ」


その一言でトドメをさされたかのような感覚に陥ったエリクは、一度深く深呼吸をして自分の心を落ち着かせた。

エリクにとって魔王は―――

勇者パーティーを無慈悲に壊滅させる、ただただ恐ろしい存在だった。


そんな魔王に新しい感情が芽生えたことを察したエリクは、眼鏡を正しい位置に直しながらこの上ない柔らかい笑みを浮かべた。


「女性に興味を示さなかった魔王様が、ついに―――

性癖に多少の歪みはあるものの・・・


くぅぅ・・・ ッッファンタスティッック―――!」


魔王の成長を身にしみて感じたエリクは嬉しさのあまり感涙を流したのであった。



コンコン


「オリー、入っていい?」


「どうぞー」


魔王城、オリヴィアの部屋―――

扉の前に立つのは魔王とその従者、エリクだった。

きちんとノックをして入室許可をもらっている魔王を目の当たりにしたエリクは、懸命に涙を堪えていた。


(っっッエレガンット)

「やぁ、オリー。 俺の従者がきみに挨拶したいんだって」


「―――ぜ、是非!」


オリヴィアは慌てて椅子から立ち上がり、魔王の元へと小走りで駆け寄る。

魔王の背後から静かに姿を表したエリクは、優しく微笑みながらオリヴィアに手を差し伸べた。

それは挨拶のつもりだったのだが―――


「触るな」

「―――失礼しました」


魔王に命じられ、素早く後ろに引き下がる。


一方、オリヴィアは―――

冬の夜空を連想させるエリクの青く輝くサラサラな髪、そしてほのかに青みがかった雪のような灰色の瞳に釘付けになっている様子だった。


「素敵・・・」


美しいものに目がないオリヴィアの性格を分かり切っていた魔王であったが、オリヴィアに見つめられているエリクに嫉妬心が芽生え、やや不満気に腕を組む。

エリクはどう反応してよいか分からず、苦笑いを浮かべることしかできなかった。



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