最終話.稀代の悪女
そうして、私は魔国の王になりました。
魔王ダニエルでございます。
魔王になってからは苦労の連続でございました。腐った国を立て直すのに四苦八苦。
毎日のように襲ってくる刺客をぶちのめし、刺客を放った貴族も退治。
法律を整備し、経済を回復させ……まあ、とにかく色々やったのでございます。
今では魔国の中興の祖などと呼ばれております。
まあ、お嬢様が君臨する国を美しく整備するのは当然でございますからね。ついでに民が幸せになったようで、なによりでございます。
弟は離宮で自由な生活を送っております。
「兄上。庭でやっている畑でトマトがとれたぞ。食べるか?」
「本当に自由になりましたね、あなたは……」
頬を土で汚しながら、幸せそうに笑う弟。手にはトマト。平和ですねえ。
「ああ。王座から離れ、俺はようやく解放されたんだ。ありがとう、兄上」
「なんですか。あんなに殴り合っておいて」
「あと、最近気になる女性ができて。優しい人だ、とても……」
は? なんですか? 私が全力で国を立て直している中、弟は【引退魔王は聖女とスローライフを送る】みたいな生活してます?
王座を追われた元魔王が、優しい女性と出会って過去のトラウマを癒やす……みたいな話になってますか?
まあ、幸せそうならいいでしょう。一応弟ではありますしね。
「俺は兄上と仲良くなれて嬉しい」
「ハイハイ、勝手に言ってなさい」
そして今日、お嬢様と私の結婚式でございます!
国がゴタゴタして遅くなってしまいましたが、これも完璧な結婚式を挙げるため。
全ての段取りを決め、準備を整えたのは私でございます。正直法律を考えた時よりも気を遣いました。
美しい花に囲まれた式場。
厳かな教会。
遠くからは民衆の祝福する声。
「ダニエル陛下、バンザーイ!」
「お幸せにー!」
ああ、結婚式には国賓として隣国の王太子殿下も呼んでおきました。
状況が理解できない様子ですね。でしょうとも。使用人だった男が隣国の王様になって、更にお嬢様と結婚ですからね。
まあ、あなたは私達を祝福する拍手をしておけばよろしい。
そして、世界で一番美しいお嬢様。白いウエディングドレスに身を包み、私の隣に。
「お美しいです、お嬢様……」
ああ、私、涙で前が見えません。私と結婚するお嬢様! 5歳の私、あなたの夢が叶いましたよ!
「何故あなたが泣くの、ダニエル」
「お嬢様が私を選んで下さった……。こんなに嬉しい事は他にありません……!」
お嬢様は嬉しそうに微笑んだ。
「わたくしは、政略結婚の駒だったわ。両親もわたくしを駒としてしか見ていなかった。だけど……あなただけは、いつも真っ直ぐわたくしを見ていたわ、ダニエル」
「当然でございます。お嬢様は生まれたその瞬間から私を虜にしたのですから!」
「ええ、だからわたくし、あなたが良いのよ」
お嬢様の緑の瞳が細められる。金の髪が揺れる。
ああ、なんてお美しい。生まれたときから、あなたは誰よりチャーミングでございます。
「さあ、新郎新婦、誓いのキスを」
私とお嬢様の唇が近づき……。
祝福の鐘が鳴り、拍手が式場を包みます。
今この瞬間より、私は正式にお嬢様の夫でございます!
そして、唇が離れて……。
「さあ、命令よ。一生、わたくしと一緒にいなさい。ダニエル」
私は思わず跪きました。ざわめく式場。
「ええ、もちろん。命令されずとも、私は生涯あなたの側に!」
美しく笑うお嬢様。
ひとりの男を狂わせて、国さえひっくり返させた稀代の悪女。
お嬢様をお育てしたのは、私ダニエルでございます!
〈完〉
完結までお読みいただき、ありがとうございます!
もし少しでも『執事が面白かった』『お嬢様お幸せに!』と思っていただけたなら、ぜひ下の【★★★★★】をダニエルの頭に紅茶をかけるつもりで、ブチ撒けてやってくださいませ。
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