6.内乱でございます!
宣戦布告をしてしまった以上、この王宮には居られません。夜逃げ同然に逃げ出す私。
私、反逆者のダニエルでございます。
「お嬢様……」
外から見るお嬢様のお部屋。暗い部屋の中、眠っているであろうお嬢様。
ああ、お嬢様と離れることだけが心残りでございます。
その時、お嬢様の部屋の窓が開いて……。
「ダニエル?」
窓から顔を覗かせるお嬢様。
「お嬢様!」
「どうしたの、こんな夜中に。お庭のお掃除かしら?」
「実は……」
私はゆっくりと話し始めました。
実は私が魔国の正統後継者であること。
国を奪うと宣言して、ここから出て行く事になったこと。
お嬢様と、しばし離れねばならないこと……。
「そうだったの。で、明日からわたくしは誰に世話されれば良いの?」
「後任の使用人には色々と言付けてあります。それに、私はすぐに迎えに参ります」
「ダメよ。待てない……。待たないわ」
窓枠に手をかけるお嬢様。そして、身を乗り出して……。身を乗り出して!? 危のうございます!
「お嬢様! その部屋は2階でございます! 落ちてしまいます。どうかお部屋に戻られてください!」
「口答えせずに、わたくしを受け止めなさい!」
窓から飛び出したお嬢様。ふわりと舞うスカート。駆け出す私。そして。
ドサッ!
「よ、良かった!」
私の腕の中に収まるお嬢様。危のうございました! こんなに恐ろしい事は初めてです。心臓バクバクでございます。
「お嬢様! 金輪際、この様な危険な真似は……!」
「うるさいわダニエル。ならもっと危ない事をしてあげる」
「何を──」
ちゅ。
その時、お嬢様が私の頬に口付けた。
え!? 口付けた!?
思わず思考が止まりました。
人生で初めてのキッスでございます。
「お、お嬢様……今のは! どういうコトでございますか!」
「自分で考えなさいな」
そしてお嬢様はフッと笑った。
「あなた王様になるのでしょう」
「ええ、なります」
「わたくし、あなたに賭けるわ。命令よ。あなたの手で、わたくしをこの国の王妃にしなさい」
「それは……」
あの、私の顔、真っ赤ではございませんか? 頬が熱くて火が出そうでございます。
「返事をなさい、ダニエル」
「ご命令とあらば、なんなりと!」
──その夜。
私、反逆者ダニエルは、お嬢様を攫って王宮を後にしたのでございます。
◆◆◆
それからは、まさに狂気奔走。
私が魔国の正統後継者であると高らかに宣言。今の政府に不満を抱く人々を焚き付けました。
沢山の支援者たち。反乱に協力するという市井の人々。予想通りでございます。
この国が不満に塗れている事は、お見通しでございました。
無論、お嬢様のお世話も完璧でございます。お嬢様は毎日美しいドレスを着て、美味しいお茶を飲み、天蓋付きのベッドで眠っておられます。
弟は何度も弾圧してきましたが、我々は屈しませんでした。この国は変革を求めているのでございます。
そうして、その日はやってきました。
「ダニエル、お城を落とすのね」
「ええ。お嬢様、今日がその日のようでございますね」
その日は、突然訪れました。予想よりも早かったですね。
民の不満が爆発し、魔国のあちこちで武力衝突が起こったのでございます。こうなると、もう止まりません。
「私は彼らを指揮し、城を攻め落とします」
「ダニエル、午後のお茶の時間には間に合わせなさい」
お嬢様の言葉に、私は跪きました。
「ええ、必ずや最高の1杯をお約束いたします」
◆◆◆
その日の12時、反乱軍が王宮を取り囲みました。
よし、あと3時間以内に全てを終わらせれば、お茶の時間に間に合いますね!
「ダニエル様! 突撃の準備が整いました! どうかご指示を!」
「よろしい! では、突撃でございます!」
そして、突撃を命じて2時間。はい、城が落ちません。
非常にまずい! このままではお茶の時間に間に合いません! あと1時間で全て片付けなくては!
城を鎮圧して、弟と話して、王座を奪う。
ええ、1時間でいけますよ! このダニエルならば!
「私が直接出ます!」
「な、ダニエル様。危険です!」
「問題ありません。ああ、残り55分でございます! 失礼!」
私は駆け出しました。
襲い掛かってくる兵士を千切っては投げ、千切っては投げひたすらダッシュ。
途中で魔国四天王とかいう連中が襲ってきましたが、ワンパンでございます。
どうやらこの四天王が原因で侵攻が遅れたようですね。
そして、王座へ。豪奢な椅子にどっかりと座る弟。
「きましたよ、魔王! いえ、アホの弟!」
「きたか、兄上……」
構える私。立ち上がる弟。
私と同じ真っ赤な目が、こちらを睨んでおります。
懐中時計を取り出します。え、残り17分!?
ギリギリでございます!
「良いですか、弟よ。あなたは亡き母親に呪われているのです。今、私が解き放ってやりますよ」
「……できるものなら……、できるものなら、やってみろ!」
そこからは壮絶な殴り合いでございます。ルールは簡単、最後に立っていた方の勝ちでございます。
バキッ!
「兄上には分からないのだ! 愛されて育った兄上には!」
ドコッ!
「ええ、分かりません! ですが、あなたが幸せだとはとても思えません! さっさと王座と呪いを手放しなさい!」
残り9分! まずい!
脳裏にお嬢様の美しいお顔。ああ、お嬢様。私がお茶の時間に間に合わなかったら、お嬢様は。
──あなたには失望したわ。
万一、そんな事を言われたりしたら……私は……!
「耐えられません! これで終わりでございます!」
「グゥっ!」
重い一撃! 弟が地に伏しました。 ええ、苦戦しましたが完全勝利でございます。
「兄上……。俺を殺すのか?」
「は? 殺しませんよ。殺してお嬢様が喜ぶでもなし。あなたは離宮で隔離。今流行りのスローライフでも過ごしなさい」
「……はは、最後まで、それか」
弟はガクリと失神。その弟から王冠を奪いさり、私の頭に載せました。
そして、玉座に座り……。
これにて戴冠! はい、残り5分ジャストでございます!
「お嬢様! 今ダニエルがお茶をご用意いたします! どうか待っていてください!」
新しい王の誕生に沸く民衆。
全力で街を駆け抜けてお嬢様の元に戻り、お茶を用意する私。
ええ、これで内乱は終わり。新しい王の誕生でございます。
そして、素晴らしい午後のティータイム。
「ダニエル。あなたが新しい王様になったのね」
「ええ、お嬢様は王妃様でございますよ」
「あら、まだ違うわ。結婚式をしていないもの」
け、結婚式! そうです。お嬢様と結婚式でございます。
それはつまり、お嬢様とケーキ入刀したり、誓いのキッスをするという事でございますね!?
私……私、涙を禁じ得ません……!
「あら、泣いているの、ダニエル」
「はい、幸せ過ぎて……! 私は……!」
「なら、もっと幸せにしてあげるわ。ダニエル、屈みなさい」
紅茶のカップを傾けるお嬢様。これは……!
ビチャビチャビチャ……!
アツアツの紅茶が頭にかかっております。
ああ、お嬢様! 私、世界で一番の幸せ者でございます!




