5.宣戦布告
圧倒的な差別社会! 貧困!
めちゃくちゃな法律!
常に地を這う経済!
「この国、終わりでございます!」
何故崩壊していないのかが不思議なレベルですね。
何故こうなっているのか? それは、腐敗が原因でございます。
圧倒的に腐敗した政治。何代にも渡って甘い汁を吸う貴族達の罪。
「お嬢様! 私が、この国を──お嬢様のお国を良きものにいたします!」
そうして一晩。私、この国で一番政治に明るい男となりました。
執事兼宰相でございます。
朝一番、集められた臣下たち。
「そういうわけで、ダニエルがこの国の政治をする。今日から勝手は許さん」
王座で気だるげに命令する弟。臣下の目が私に集まります。
「私、ダニエルと申します。これから何かする時は、必ず私を通してください」
臣下のひとりが手を上げる。
「増税する時も?」
「そうですね」
別の男が手を挙げた。
「じゃあ、法律を決めるときも?」
「そうなりますね」
また別の手が上がる。
「領地内で女刈りをする時もか?」
「はい」
「そんな事も許されないなんて……! もう終わりだ!」
終わっているのは臣下の皆様の頭でございます!
◆◆◆
その晩、お嬢様がお休みになった後、いつものように私の部屋に顔を出す魔王。
「兄上、遊ぼう」
「私、昨日寝てないので。おやすみなさいませ」
「今日は良いものを持ってきた」
「はー、どうせ女10人連れてきたとか、そんなんでしょ?」
バサッ!
魔王がベッドに横たわる私の側に、沢山の紙束を置いた。
「仕事でございますか?」
「いや、臣下共の手紙だ。兄上を暗殺するよう命令している。信頼できる部下に集めさせた」
手紙を見る。凄まじい殺意を感じる文章。
一方の弟、めちゃくちゃ「褒めて♡」という顔をしているのですが。
「俺は兄上の役に立ちたいんだ……」
「なら政治してください」
あなたが自分でしっかり政治をすれば万事解決でございます。私もお嬢様のお世話に専念できるというもの。
「政治はしたくない」
「ハッハッハ。お嬢様以外のワガママなんて、全く可愛くないのでやめなさい」
ゴロン、と私のベッドに転がる弟。
「あの、狭いんですが。このベッドはひとり用でございます」
「兄上と添い寝」
「馬鹿でございますか? こんなところをお嬢様に見られたらお終いでございます! さっさと出てい……」
「ダニエル! ちょっといいかしら?」
「カミラお嬢様!?」
はい、終わりでございます。
魔王と同じベッドに横たわる私、これは完全にダメな流れでございます。
「あら、どうして魔王様がいらっしゃるの?」
「こ、これは、そういうアレではございません!」
「カミラには黙っていたが……俺たちは、誰にも言えない、ただならぬ関係なのだ」
まさか“俺たち実は兄弟なんです”と言っているつもりでございますか!?
「表現! 表現に問題がございます! 誤解でございますお嬢様〜!」
◆◆◆
さて、昨晩初めて弟に手を上げた私、ダニエルでございます。
お嬢様の誤解を必死に解き、お休みまで見守り……。
そして弟に愛の平手打ちでございます。
平手打ちされて「これが兄弟喧嘩というものか……」と嬉しそうにしていましたが、それは良しとしましょう。
さて、今日も今日とて……。
「この法律、アホでございますか! ありえません、却下!」
「税率85%!? 目眩がいたします。今すぐお下げなさい!」
「だから女刈りってなんですか! 却下です!」
この腐った国をどうにかするため奔走中でございます。
無論、お嬢様のお世話も完璧に。寝不足による頭痛で頭が割れそうでございますが……お嬢様の為なら割れても良いので無問題ですね。
そして午後のティータイム。お嬢様がお茶を啜る素晴らしい光景。癒やしの時間でございますね。
「ダニエル、良くやっているわね。だけど心配だわ。あなたが倒れないか……。あなたが倒れたら、わたくし、誰に紅茶をかければ良いのかしら」
「お嬢様……!」
紅茶をかけられるのは私だけの特権、ということでございますね。この上ない幸せでございます。
ええ、お嬢様。どうか私の作った幸せな国の王妃様に……ん、ちょっとお待ちなさい。
王妃様になるという事は、つまりですよ。あの弟の妻になるという事ですね?
「し、失念しておりました!」
なーにが国の再建ですか! そんな事より婚約破棄でございますよ!
くっ、私とした事が……! 一生懸命国に尽くしてしまいました。
お嬢様と私が結婚する方法を考えなければ……!
◆◆◆
その晩、私は部屋の壁を殴っておりました。
ダン! ダン!
「どうすればあの弟は婚約破棄する……?」
当初はお嬢様が「もっと悪く」なれば婚約破棄に至るだろうと思っていましたが……。魔王は思っていた以上の悪女好きでございます。
弟の好みは“息子に王位を継がせるために、夫の子供を皆殺しするレベルの悪女”。
一方のお嬢様の悪事といえば、芋虫を人の靴に入れる程度。甘々でございます!
「ですが、倫理的に許されないラインというものがございます……」
私、お嬢様を悪女にはいたしましたが、地獄に落ちてほしいわけではございません。
どうすればお嬢様は私のものになるのでしょう。
「……閃いてしまいました」
そうでございます。最強の手がひとつあるではありませんか。
「私が魔王になればよろしい!」
だって私、血統的にはこの国の正統後継者でございます。
王位を奪って、カミラお嬢様も奪う! 素晴らしい計画でございます。
その時。またしても部屋に遊びに来る弟。
「兄上、遊ぼう」
「いいですよ、弟よ! 私は今日からあなたの唯一無二の兄です」
「急に優しいな……」
「その代わり、少し工面してほしいモノがございます」
首を傾げる弟。
「何が欲しいんだ?」
「王位」
「えっ?」
一瞬の静粛。
「国が欲しいのか、兄上は……」
「いいでしょう? どうせあなたは世話をしない。ならば、私が代わりに。あなたも重圧から解放されて幸せでございますよ」
「それは……」
何を迷っているのでしょうか。さっさと私に国を譲ると決めて、楽隠居すればよいのです。
そして、私とお嬢様の結婚に貢献しなさい。
「ダメだ、兄上には渡せない。王位は、母が俺にくれた唯一の宝物だ」
泣きそうな顔をする弟。
てっきり「やった〜! 兄上のおかげで遊んで暮らせる!」くらいの反応が返ってくるかと思っておりましたが……。
「それに、兄上とって王位は手段でしかない。そうではないか……? 兄上が欲しいのは──カミラだ」
「その通りでございます。カミラお嬢様と結ばれることこそが私の宿願。この世の全ては、その踏み台でございます」
私をキッと睨む弟。兄に向かってなんですかその目は。
「そんな兄上には、王位もカミラも譲りたくない!」
「あなたこそ、母親の影に囚われているだけでございます!」
なる程、決別でございますか。いいでしょう。
「ならば、内乱と参りましょうか。魔王様」
「できるものならやってみろ、使用人」




