3.びっくりカルチャーショック
「今日は10人ほど斬れるぞ。嬉しいだろう、カミラ」
嬉しそうに微笑みかける魔王。困惑しているカミラお嬢様。
私、執事ダニエルもびっくりでございます。
そんな「今日は君の為にケーキを用意したんだ♡」みたいな顔して、死刑囚を用意してくる事ってあるんですか? あるんです! そう、魔国ならね!
いや、冗談ではございません!
私はカミラお嬢様を悪女に育てましたが、人の道を踏み外した畜生には致しません!
処刑を「あら素敵」などと言ってご覧になるお嬢様は、完ッ全に解釈違いでございます!
とか言ってる間に。既にひとり処刑されそうになっているのですが!
「お嬢様。“見ない”という選択もございますよ」
私はお嬢様に囁いた。お嬢様は扇で口元を隠し、そしてフッと笑った。
「魔王様、こんな余興には興味がなくってよ。わたくしの気を引きたくてギロチンまで持ち出して。可愛いお方」
魔王はそれを聞き、大笑いした。
「可愛い、と! フハハハ! この俺が!」
そして、スッと真顔になる。魔王の赤い目が、お嬢様をとらえた。
「血もマトモに見られないとは、ガッカリだ」
魔王の冷やかな言葉。
いや、私はあなたの倫理観にガッカリでございますよ。どうなってるんですか、この国は!
「血くらい平気ですわよ。……そうですわねぇ。ダニエル」
「はい。お嬢様」
「10人の死刑囚、全員と殴り合いなさい」
「はい、畏まりました」
はい? お嬢様、今なんと? 返事はしたものの、私理解が追いつきません。
「ねえ、魔王様。囚人とダニエルを戦わせるなんていかが? わたくしのダニエルが勝ったら、わたくしの前で二度と不愉快な余興はしないと約束して下さる?」
「構わないが……。反逆者共は全員元軍人。その使用人が死んでも知らんぞ」
「オーッホッホッホッ! わたくし、ダニエルより強い者など知りませんわ。ダニエルは勝ちます」
ああ、そういう賭けなのでございますね。楽しそうで何よりでございます。
元軍人が10人。それと殴り合って勝てばよろしいのですね?
そんな。なんて。
なんて、簡単なご命令。
「ダニエル、勝ちなさい」
「ご命令とあらば」
ええ、私、執事ダニエル。
世界一ステゴロが強い男でございますよ。
魔王はニヤリと笑った。
「囚人ども! この使用人に勝ったら解放してやる!」
囚人の縄が解かれていく。
そして、囚人が私を見て……余裕そうに笑った。
そうですね。私、どちらかといえばシュッとした感じのイケメンでございますから。舐められてしまいます。
は〜、アホでございますね! 人を見かけで判断すると……後悔しますよ。
「あんなモヤシ野郎、すぐに殺せる! いくぞ」
「死ねー! クソ貴族の犬!」
殴りかかってきた男。ムッキムキでございますね。
「カミラ、賭けは俺の勝ちだな」
「いいえ、ダニエルが──わたくしが勝ちますわ」
飛んでくる拳。
それを避け、相手の鳩尾に思い切り、拳を打ち込む!
「グオッ!?」
その場にへたり込み、腹を抑える囚人。私の拳の重さ、思い知りましたか?
「さあ、一気にお片付けでございます!」
ひとり、またひとりと囚人達が地に伏す。
囚人達が弱いのか? いいえ、私が強過ぎるのでございます。
幼き日よりお嬢様を守る為に訓練を重ねてきた私に、敵などおりません。
伯爵家に紛れ込んだ暗殺者を、領地内でやんちゃする盗賊を。あらゆるものを拳で薙ぎ倒してきました。
「ぐうう……!」
地面に倒れ込む最後の囚人。これにて私の完全勝利。
私はお嬢様の最強の剣──いえ、拳でございます!
「オーッホッホッホッ! 賭けはわたくしの勝ちですわね」
お嬢様が勝利の高笑い。魔王は悔しそう……ではありませんね? というか、めちゃくちゃ私を見てきてますね。
「なんだあの使用人は……」
「ダニエルですわ。私の執事ですのよ」
「ほう……あれは。なる程な」
魔王が目を細めた。そして、笑みを浮かべた。
「まあいい。約束は約束。もう処刑は、お前の前ではしない」
「約束を守る殿方は好きですわ」
賭けに勝ったお嬢様は上機嫌。
そんなお嬢様の頬に、魔王の右手が触れて──は? キスをしようとしていませんか!?
駄目です駄目です! 許しませんよ婚前交渉なんて!
「お嬢様! 危のうございます!」
私は魔王の唇の前に、自分の手を突き出した。
ちゅ。
セーフ! お嬢様の唇、セーフ!
私の手に魔王の汚い唾液がついただけでございます!
「おい、なんのつもりだ」
「失礼。お嬢様の唇は、結婚するまで死守いたします」
そう……“私”と結婚するまで。お嬢様は生涯私としかキスをしません。
理屈ではございません。そういう運命なのでございます。
「ほう……そうか」
私の目を真っ直ぐ見つめて、余裕綽々で笑う魔王。そして、私の顎を持ち上げ……。はい?
顎クイ……!?
え、そういうシュミでござますか。私の唇、奪われてしまうのですか。お嬢様以外に?
嫌でございます!
「お止めください。私にそのような趣向はございません」
「は? 何を気持ち悪い事を言っている。お前の目を見ているだけだ」
「さ、左様で……」
顎クイして顔を見つめられること数秒。なんですかこの時間は。
「なる程……まあ、いい。カミラ、今夜部屋を訪ねるぞ」
この魔王、今なんと? 私のお嬢様のお部屋を、今夜訪ねると言いましたね。それはつまり……。
お嬢様、貞操の危機でございます!
「お嬢様、お断りしてください。婚前に殿方と夜を過ごすなど言語道断です」
お嬢様は首を傾げた。
「夜に遊びにいらっしゃるだけでしょう?」
「それはイケナイ遊びでございます!」
「では今夜。楽しみにしているぞ、カミラ」
お嬢様の返事も聞かず去っていく魔王。
これは非常にまずい事態でございます。どうにか、どうにかお嬢様をお守りせねば!
あんな冷酷無比な倫理観ゼロ男に、お嬢様が穢されるなど耐えられません。というか、私以外がお嬢様に触れるなんて許されません。
どうすれば。どうすれば……ああ、閃きました。
「お嬢様。どうか私の願いをお聞きください」
「良くってよ。どんなお願いかしら」
「それは……」
◆◆◆
その晩。魔王はお嬢様の部屋に現れました。
「カミラ、入るぞ」
入るぞ、と言う前から既に入ってきてますね。なんなんですかね、あの傍若無人は。
魔王はベッドに近づき、掛け布団をバサッと剥がし……。
「なぜ、お前がいる?」
はい、ベッドに寝そべっているのは私、ダニエルでございます!
期待してたんですか? アホでございますね〜! お嬢様は今頃、私の部屋でお休み中でございます。
「申し訳ございませんが、お嬢様には触れさせません。婚前交渉など許されませんので」
「ふん、たいした度胸だ」
魔王は少し考え込み、そして口を開いた。
「せっかくだ。良いものを見せてやろう」
「良いもの、でございますか?」
あなたの言う“良いもの”の信頼度、正直地の底なのですが。
「お前の……いや、あなたの母の話だ。兄上」
「……はい?」
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