「スポーツ大会」= 栗栖 暁の場合=
いよいよ、スポーツ大会当日。
俺は、初日は「バレーボール」で参加した。
同時に試合の「サッカー」で参加していた赤井の雄姿を見ることは出来なかった。
さぞかし、活躍したのだろうと思ったが、彼はゴールキーパーで出場し、特に目立った活躍はしていなかったらしい。
試合を見学していたクラスのやつの誰も赤井の噂はしていなかった。
なんだか凄くがっかりした。
やはり目立ちたくなかったのだろうか?
俺の方は、それなりに活躍はしたが、メンバーが「へっぼこ」すぎた。
トスを上げられる者はいないし、中村慎吾以外は、サーブすら入らない者ばかりで一回戦を勝つだけで精いっぱいだった。
スポーツ大会二日目。
俺はやっと赤井凛音と同じチームメイトとなった。
なんだか妙に嬉しくて、ガラにもなく
「頑張ろうぜ!」
と赤井の肩を叩いた。
その時、いつもは無表情だった彼の目が一瞬輝き、微笑んで見えたのは気のせいだろうか?
俺は、バスケットボールを体育以外でプレーした経験はなかった。
中学では不登校だったのでほぼ未経験に等しい。
けれど、俺には持ち前の運動能力がある。
最初こそ、ルールが曖昧でトラベリング反則をとられたり、中村慎吾に強すぎるパスボールを投げてしまって迷惑をかけたりしていたが、徐々に体が慣れてきた。
すると、それまであまり積極的に動いていなかった赤井凛音の
「栗栖!!こっちへ!パス!」
という声が背後からした気がした。
俺は、反射的にノールックで赤井の声がした方向にパスを出した。
赤井は、的確に俺からのパスを受け取り、そのままシュートを決めてくれた。
本当に見事なドリブルシュートだった。
俺も身長は180センチちょいと高い方だが、その俺を超える高さがある。
本気を出せばダンクも決められるのかもしれないと思ったほどだった。
それから、俺と赤井は、長年のチームメイトのような連携でシュートを決めた。
予想外にも決勝まで進んでしまった。
「マズイな」
赤井は、汗をタオルでぬぐいながらつぶやいた。
「えっ?相手が強すぎる?さすがに決勝だからなぁ」
と俺が答えると、
少し間をおいてから、いつもの無表情の赤井凛音の顔で言った。
「そうだな。」
俺は、直感的に赤井の「マズイな」は、勝てそうにない相手だから言ったのではないと悟った。
赤井は、このままだと勝ってしまう、目立ってしまうのがマズイと言った気がした。
でも、なぜ? 目立ちたくないのだろうか?
男なら、女の子にキャーキャー言われたいはず。
女の子にモテたいと思うハズだが、赤井はその反対に見える。
既にギャラリーの女子たちの目はハートだし、赤井に釘付けになっている。
多少、俺を見ている女子もありがたい事にいるが・・・
俺も慣れていないことなので気恥しい。
しかし、赤井のそれは、俺のそれとは違うように思える。
なぜなのだろう?と俺が考えあぐねていると、赤井が突然
「わるい、栗栖。腹痛くなって来たからトイレ行ってくる。後は頼むわ。」
そう言って、赤井はその場を去ってしまった。
赤井にキャーキャー言っていた女子たちも、赤井がトイレのある校舎へ消えていくと、次に活躍した俺に目が行くらしく、
「来栖くーん! 決勝がんばって!!」
と、俺に黄色い声援が飛んできた。
横で中村慎吾も
「俺も前半戦は、それなりに活躍したんだけどなぁ。」
「後半から、急にふたりが活躍しだしてさぁ~。ほんとビックらポン!だったよ。」
「でも、赤井くんと栗栖くんのコンビネーション良かった!!俺も見惚れたもん!!」
と、言いながら、俺の手を握り締めながら、キラキラした目で俺を見て来た。
世の中、みんなが中村みたいなら平和で楽しい社会になるんだろうなぁ。
「中村くんも頑張ってね~!!」
女子からの声援に、てへへ…と頭を搔きながらペコペコする中村慎吾。
相変わらず、中村は根の明るい良いやつだ!
まもなく次の試合という直前に担任来て言った。
「赤井くんは、腹痛で病院へ行くことになったので、決勝は補欠の人に代わってもらって下さい」
今まで風邪で休んだこともなかった赤井凛音が?
マズイとは腹痛のことだったのか?
もしや、持病を持っているから目立たないようにしいたのか?
まさか余命何年・・・
なんて、悲劇のヒロインチックな秘密を抱えているなんてないよな?
と、頭の中で思いがぐるぐるしたままバスケの決勝戦に出た。
もちろん、敗けた。
俺は、試合に敗けたことよりも赤井が心配だった。
試合後、担任に確認してみた。
「赤井くんは、大丈夫なんですか?」
「念のために医務室へ行かせだが、食後すぐ激しい運動したから、と本人が言っていたから大丈夫だと思うよ」
と、担任は言っていた。
俺は、ほっとした反面、そんなやわなヤツでは無いように思えて疑いたくなった。
そのままスポーツ大会が終わっても赤井凛音は、戻らなった。
医務室の先生に念のため病院へ行けと言われたようだった。
今すぐにでも、自分で彼の安否と本心を確認したい衝動に駆られた。
だが、赤井凛音の連絡先も彼の自宅の住所も知らなかった。
そういえば、クラスに彼と連絡先を交換している人なんているのだろうか?
このSNS 時代に彼の情報は、どこにも見当たらないとは、どういうことだ。
担任に住所を聞いてみたいが、大丈夫と言っている以上聞くわけにもいかないだろう。
スポーツ大会の翌日は代休で授業は休みだった。
休み明けの教室にも彼、赤井凛音の姿はなかった。
やはり、体調崩して入院でもしているのだろうか?
廊下には、スポーツ大会のヒーローの赤井凛音の姿を一目見ようと群がる女子でいっぱいなのに。
「赤井くん、来てないの??」
「バスケの決勝戦には出てなかったよね?」
「なんかお腹痛いって医務室行って、そのまま病院行ったらしいよ」
「え~~ッ!!赤井くん大丈夫なのぉ?」
そりゃ~みんな心配するわな。
そこに、うちのクラスの担任が来て、
「こらこら、もう授業が始まるから、他のクラスの皆さんは自分のクラスに戻りなさい」
と、言った。
赤井凛音ファンの女子たちはそれに負けまいと食い下がり
「先生!赤井くんはだいじょうぶなんですか?」
と、聞いた。
俺も思わず耳をダンボにした。
「体調は大丈夫らしいが、ご親族にご不幸があったらしくてご両親の実家の方に行って休むとのことだよ」
「なぁ~んだ! 良かったけど、つまんない!!」
と、言いながら赤井凛音ズ女子は、各教室へ帰っていった。
俺も安堵したものの、やはり猜疑心はぬぐえなかった。
赤井は、このまま学校へ来ないのでは?と思った。
その週は、週末から祝日を挟んで学校だった。
祝日明けから、実力テストと定期テストが続く生徒にとっては魔の期間の幕開けだった。
そして、俺の心配をよそにスポーツ大会から一週間後に赤井凛音は、平然とした顔で教室に居た。
まるで何もなかったかのように実力テストを受けていた。
テスト期間中ということもあり、赤井ガールズたちも廊下に集まって来るわけにもいかず、いつもの静かな教室に戻っていた。
まるで赤井凛音の計算通りにことが進んでいるかのようだった。
俺は勇気を出して赤井に話しかけてみた。
「体調はもういいのか?無理して試合に出たりしていた?」
いつもの「無」の表情の赤井凛音が言った。
「ああ、心配かけた、すっかり元気だ。迷惑かけて悪かった。」
俺はなんだか嬉しかった。
初めて赤井とまともに会話できたからだ。
「迷惑なんかじゃなかったけど、心配した。君とのバスケ、楽しかった。」
これは、俺の本当の気持ちだ。
すると赤井は「無」の表情を崩して
「俺も楽しかった。もっと一緒にやりたかったけどな。すまなかった」
と、赤井は小さな声でつぶやくように言った。
やっぱり、赤井凛音も、いいヤツだ!
きっと、何か理由があって学校では目立ちたく無いだけなのだろうと思った。
テスト期間が終わると間もなく順位上位者が張り出された。
一番は、やはり赤井凛音だった。
次いで二位は、俺、栗栖暁、三位は文系クラスの女子だった。
目立ちたくないはずの赤井凛音だが、成績上位は外せないらしい。
おそらく特待生だからだろう。
我高校は、学業成績とスポーツの優秀者が特待生となる。
学業の場合上位3名が特待生になれる。
特待生は、なにかと優遇され授業料や諸経費が免除される。
親孝行の極みだろう。
赤井も俺も入試で上位合格だったので後期も特待生だ。
おかげで、中学まで不登校生徒だったという親の不安を払拭できたらしい。
まあ、このまま高校を無事卒業できれば…の話だが。
テスト返却期間が終わるとテスト休みが入りそのまま夏期か休暇となる。
成績不振者は、テスト休み期間に保護者面談となり、夏期休暇中に補講となる。
まぁ、俺や赤井のような特待生には、関係の無いことだ。
でも、夏休み中、赤井が何しているのか気になってしまう。
おそらく、俺と同じく、さほど勉強をしなくても高得点がとれる体質と思える。
だから、受験のために塾や予備校に通っているとは思えない。
かといって友達という友達がいるようにも思えない。
赤井が、長い休みを何して暮らすのか気になってしまう。
俺も、久しぶりの不登校ではない長期休暇。
まっとうに学校へ行かなくて良い期間を過ごすこととなり、どう過ごして良いのか戸惑うところだ。
「赤井と過ごしてみたいなぁ」
なんて思う俺。
これは、恋心なのか?
ひとりで焦るオレ!!
いやいや、女の子に恋をしたことが無いわけできないから、男好きなわけはない。
幼稚園の頃のすず先生が初恋だし、小2~4までは、あやちゃんが好きだった。
あやちゃん、元気かな?
とはいえ、あやちゃんの苗字すら思い出せないけれど。
それ以降は、恋という恋はしてないけどな。
だからといって男が好きになるわけはない。
単に、赤井凛音が気になるだけだ。
なんと言っても、スポーツ大会での彼とのプレーは楽しくて仕方なかった。
もっと赤井とずっとプレーしたかった。
あんなに息の合うチームメイトはいないと思えたから、それが忘れられないのだ。
と、必死に自分に言い訳をする自分に苦笑いした。




