仮契約の花子さん 3
「おーい、ゴクドウ」
見ると、メガネをかけた少年がこちらに歩いてきていた。
同じクラスの唄河広志だ。
「広志。おまえ、いい加減、その呼び方やめろよ。マジでヤクザと間違われたら、どうするんだよ」
「しょうがないだろ。おまえは〈甘極堂〉の極導くんなんだから~」
広志がニヤニヤしながら、極導のわきばらを小突いた。
「あいかわらず、町歩きか?」
「ああ。あたらしい和菓子のアイデアが思い浮かばなくてな。こうして気分転換に町を散歩してるんだ」
もちろん嘘である。
もともと魔廻りは江戸時代に幕府が極秘につくりあげた、逢魔廻り同心という役職。時代が移り、独立体制となった現代でも、その存在は一部の者にしか知られていない。
だから追株町の住人は、自分たちのすぐ近くに怪異がいることも知らないのだ。
「アイデアが浮かばないか。じつはおれもそうなんだよ」
広志が指でメガネを押しあげた。
「つぎに描くマンガのアイデアが浮かばなくてさ、おれもおまえと同じように町ブラしてるんだ」
広志は追株高校のマンガ投稿部に所属しているのだ。
「ここで会ったのも、なにかの縁。ゴクドウちゃ~ん、なんかおもしろいアイデア出してくれよ~」
「いきなり言われても出せるわけないだろ」
「そんなこといわずにさ~」
「だから、いきなり言われても……あ」
「ん? どしたの、ゴクちゃん」
「おまえ、たしかギャルが好きだったよな?」
「ああ。自慢じゃないけど大好物だぜ」
「じゃあ、もしトイレの花子さんがギャルだったらどうする?」
「はあ?」
「だからさ、トイレの花子さんがギャルなんだよ。歳はおれらと同じぐらいで、肩とかへそとか丸出しのヤバい恰好してるんだ。しかも相撲が好きでさ。そんなやつといっしょに暮らすことになったら、おまえ、どうする?」
「ゴクドウ、おまえ、頭うったのか?」
広志が本気で心配しながら訊いた。
「たしかに大好物とは言ったけどさ、いくらなんでもトイレの花子さんがギャルってのは――いや、待てよ」
不意に広志が眉根にしわを刻んだ。
「案外いけるかもしれないぞ。ヒロインはおまえの言うとおり、エロい恰好のギャルで、その正体はJKのトイレの花子さん。相手役は……そう、ヤクザの跡継ぎ」
「だから、おれはヤクザじゃねえって!」
「だれもおまえだなんて言ってないだろ。若いヤクザとギャル幽霊がくりひろげる、ちょっぴり切ないドタバタラブコメディ。うん、いける。これはいけるぞ」
広志は自分で自分のアイデアに箔を押すと、
「サンキュー、ゴクドウ。おまえにたのんで正解だったよ」
雨あがりの太陽のような顔で親指をあげた。
「アイデアのお礼だ。あとで、おれが隠し撮りしたギャルの画像を送ってやるよ」
「いるか! ってか、おまえ、隠し撮りはヤバいだろ」
「だいじょうぶだって。撮ったのは町中で、裸とか下着のやつはないから」
そういう問題ではない。
「ああ、アイデアが頭のなかにあふれてくる。こうしちゃいられない。さっそく家にもどって、ネームを書くぞ」
広志が走りだした。
が、まわりを見ていなかったため、すぐ近くを通りかかった通行人とぶつかってしまった。
「あ、すみま――」
「ふざけんな、クソガキ!」
ぶつかった通行人が、いきなり広志を突き飛ばした。
(つづく)
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