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片般若 11

 こうしてシマは(じゃ)(おう)(ひめ)ミキとして生まれ変わった。

 蛇王姫じゃおうひめ蛇神へびがみと同等の強い霊力を持った怪異。

 だが解右衛門ときえもんの言葉どおり、ミキは最初から妖術を使えたわけではない。

 現代社会で生きる(すべ)を身に着けたのち、ミキはメイドとして日比谷ひびや家に潜入。

 ときに殺すべき相手に抱かれながら、妖術の研鑽(けんさん)に努めてきたのである。

 そして、ようやくたましいの一部を白蛇に変える力と、蛇を帯などの細長いものに変える蛇帯(じゃたい)の術を()(とく)。復讐を決行した。


 最初の標的だったタクトは事前に白蛇をネッククーラーに変えておき、彼がひとりきりになったところを白蛇にもどして絞殺した。

 たましいの一部である白蛇とは感覚を共有しているので、殺害するタイミングはミキ自身が決めた。

 また、この白蛇はミキが自分の意志で消滅させることも可能。

 現場から凶器が発見されないのは、犯行後にミキが白蛇を消したからである。

 つぎのナオトも事前に白蛇をネクタイに変えておき、同じ手口で殺害。

 響介(きょうすけ)本人ではなく、その息子を狙ったのは、家族が奪われていく悲しみと、つぎに自分が狙われるかもしれないという恐怖をあたえたかったからである。


 そしてついにミキは復讐を完遂した。

(これが最後の仕上げ)

 白蛇の毒で響介の顔の右半分を腐らせる。

 そのあとミキは、自身の右目のなかに入れておいた左側だけの般若(はんにゃ)(めん)を白蛇の目を通して、遺体の顔のそばに出した。

 左側だけの般若面(はんにゃめん)

 それはミキの、いや顔の右側を潰されたシマの恨みの具現化である。

 タクトたちの顔を腐らせたのは自分と同じ苦しみをあたえたかったから。

 だから最初は顔の右側を潰そうと考えていた。

 だが、響介は腐った男である。

 そして、その息子たちもまた同じように腐っていた。

「腐った者には腐った顔がふさわしい」

 だからこそ、潰すのではなく顔の右側を腐らせたのだ。

(あとは巻右衛門(まきえもん)さまの蛇目石(じゃのめいし)を取りもどすだけ)

 響介が、奪った蛇目石(じゃのめいし)を金庫のなかに入れてあるのは調査済みだ。

 白蛇は金庫の前に行くと、溶解毒で金庫の壁を溶かし、内部へ侵入。

 かつて巻右衛門の右目だった水晶玉を自分の右目に入れた。

「…………」

 ひとりきりの自室で、ミキは洞窟で生まれたときのように胸に手を当てた。

 自分の「心」をたしかめたかったからだ。

(これでおわりにしたい?)

 復讐は完遂した。

 憎き響介も、その息子たちもすべて始末し、蛇目石(じゃのめいし)も取りかえした。

 なのに心は「おわりたくない」とこたえた。

(そうよね。もっともっと殺したいよね)

 殺したい。世にはびこるクズ男どもを、この手で殺してやりたい。

 その想いをさけぶように心臓が強く鼓動した。

 タクトを殺したとき、ミキは計画を成功させたよろこび以上に殺人による快楽を覚えた。

 それはもだえするほどの極上の快感だった。

 解右衛門が人里を襲ったのも納得のえつだった。

 これまでは復讐のための人生を送ってきた。

 だが、これからはちがう。

(これからは復讐鬼じゃなく、暗殺者のかた般若はんにゃとして、響介のようなクズ男どもを始末する人生を送ろう)

 ミキが口角をゆるくあげたとき、

 コン コン コン

 だれかが部屋のドアをノックした。


(つづく)

更新は毎日おこなう予定です。

※蛇王姫は大阪府泉南市の伝説に登場する大蛇で、蛇王(蛇王権現)の最高の存在であるとされています。

蛇王姫の有名な話として、とあるお寺の住職に恋焦がれた彼女(?)は、道に迷った旅の女に化けて、その住職に近づこうとしますが、あやしんだ住職により刀で斬られたというものがあります。斬られた蛇王姫は、その寺を守りつづけることを住職に誓い、息絶えました。

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