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わたしの帰る場所 (一話完結・特別編)

 8月の、ある日曜日。

 極導きわみちが2階の自室で、手組(てぐみ)(だん)()の新フレーバーを考案していると、

「ミッチー、おやつにスイカ切ったんだけど、いっしょに食べない?」

 (しょう)()()の向こうから、はなが声をかけた。

「スイカか、いいな。ちょうど一息いれようと思ってたとこだし、休憩にするか」

 そうして、ふたりで1階に降りた。

 切ったスイカは台所に置かれていたが、せっかくなので、縁側で食べることにした。

 庭に足を投げ出して、スイカをかじっていると、

「このスイカね、先代がS県の廃校で育てたものを贈ってきてくれたんだよ」

 花子の言う先代とは、初代トイレの花子さんである。

「そういえば、おまえ、屋敷にくる前は先代といっしょに廃校に住んでたんだよな?」

「うん」

「ふたりだけで暮らしてたのか?」

「幽霊は先代とわたしだけ。山のなかだから、イノシシとか野犬はいっぱいいたけどね」

「さびしくなかったのか?」

「あんま、さびしいと思ったことはないかな。カイダンのみんなとMINE(マイン)もしてたし」

「カイダン?」

「学校の怪異で構成された組織のことだよ。正式名称は学校の怪異団。略して怪団(かいだん)

「そんな組織、聞いたことないぞ」

「メンバー自体すくないからね。怪団は、先代がS県の学校にいる怪異に声をかけてつくった、怪事件専門の調査団なの」

 怪異がおこした事件を調べるのは、なにも魔廻(まわ)りだけではない。

 怪団のような小規模な組織は全国にいくつもあるし、そうした組織のおかげで魔廻(まわ)りの少ない地域や、山里に住む人たちの平和が守られていたりもするのだ。

「ちなみに怪団のメンバーになると、特典で先代のコスプレ待ち受け画像がもらえるの」

「いや、なんでコスプレ!?」

「先代はコスプレが趣味で、巫女みことかメイドとかのコスプレ衣装が家庭科室にいっぱいあるんだよ。あ、そういえば、女性警察官のコスプレで模擬戦したこともあったっけ」

「模擬戦で首絞めてくる警察官なんて、いやすぎるだろ」

「ほかには、ネコが大好きで、(ねこ)(また)ナースカフェに通ってる太眉人面チワワのケンさんとか、演歌が好きなベートーヴェンのベンさん、それから、ギリシャ彫刻みたいにムキムキマッチョな(きん)()(ろう)のキンちゃんも怪団のメンバーなんだよ」

「どこからツッコめばいいんだよ……」

「あと忘れちゃいけないのが『からだは模型、こころは乙女おとめ』のケイさん」

「からだは模型ってことは、人体模型か?」

「そ。ケイさん、普段はT町の廃校にいて、理科室を改造した〈ほるまりん〉っていう校内スナックのママをしてるの」

 内臓剥き出しのママがいるスナックに来る客なんているのだろうか?

 そう思って、たずねると、

「よくベンさんが、ともだちを連れて行ってるらしいよ」

「ともだち?」

「うん、モーツァルトのモっつぁん。ふたりとも演歌が大好きで、酔うと、ふたりでデュエットをはじめるんだって」

「それはちょっと見てみたいかも」

「ケイさん、料理が上手で、自分でつくったレバニラ炒めとかホルモン焼きとかの画像を、よくMINE(マイン)で送ってくれるの」

「……それ、模型の臓器でつくったやつじゃなくて、ちゃんと食えるやつだよな?」

(おお)晦日(みそか)は、わたしたちの廃校にあつまって、みんなでもつ鍋パーティーをするのが恒例行事だったんだよ」

 花子は顔をあげると、

「幽霊だから味はわからないけど、ケイさんのつくってくれたもつ鍋、食べると、とっても心がポカポカしたなぁ」

 降るはずのない雪の幻影(かげ)を求めるように、白い入道雲を見やった。

「……花子」

「なに?」

「帰りたいか?」

 過去に想いをはせる花子の横顔を見ると、つい、そんなことを()いてしまった。

「ミッチー、いまのわたしの帰る場所はここだよ」

 花子が床板をなでる。

「先代やみんなと過ごした時間は大切だけど、わたしに現在(いま)をくれたのはミッチーだよ。いまのわたしはミッチーの手組(てぐみ)。だから、わたしの帰る場所はここ」

「……そうだな」

「ところで、魔廻(まわ)りって、年末年始のお休みあるの?」

「ああ。年末はいそがしくて、あんま休めないけど、代わりに正月に()(ばん)を取る魔廻(まわ)りは、けっこういるんだ」

「そうなんだ」

「もちろん、事件があれば、出張でばることになるけどな」

「お正月ぐらい、人も怪異も平和にのんびり過ごせばいいのに」

「正月以外もそうしてくれたら、魔廻(まわ)りもラクできるんだけどな」

「もし休みが取れたら、ミッチーは、お正月に何したい?」

「そうだな……元日だけはゆっくり昼まで寝て、午後から初詣に行く」

「午後のゆったり初詣もいいね。わたしもいっしょに行って、おみくじ引こっと」

「帰ってきたら、剣の稽古」

「お正月でも?」

「習慣だからな。そのあとは甘酒を飲みながら、落語番組でも観て、晩メシまでゴロゴロしたい」

「じゃあ、晩ごはんは海老(えび)とか(こん)()とかのおめでたい食材を使った、おせちふうちゃんこ鍋なんて、どう?」

「お、いいな。ジジイも、きっとよろこぶぜ」

(こん)()だけにね☆」

「ダジャレかよ。ちゃんこ食ったあとは、風呂に入って、そのあと『タレント格付けクイズ』を観てーー」

 いつのまにか、ふたりはスイカ片手に、4か月以上も先の正月の予定を立てるのだった。


(わたしの帰る場所・完)




「話が……進まない!」

 新作エピソードの『片般若』がなかなか完成しないなか、それでも、なんとか年末までに新エピソードを投稿したくて誕生したのが、この『わたしの帰る場所』です。


「年末に投稿するんだから、どうせならお正月の話にしたいなぁ」

 という作者の想いから、作品内では8月にもかかわらず、極導と花子には、お正月の予定を語ってもらいました。


 大相撲では二名の横綱が誕生し、特撮界ではスーパー戦隊の一時的な終了(かならず復活する!)など、いろいろなことがあった2025年も、あと数日でおしまい。


 今年の9月から連続で作品を投稿してきたこともあり、わたしにとっては多忙ですが、充実した1年でもありました。


 投稿をつづけることができたのは、ひとえに読者のみなさまが作品を愛してくれたおかげ。

 そんな愛あるみなさまが、よいお年を迎えられるよう、わたくし犬山おはぎは年越しおはぎの準備をしながら、お祈りしています。


 ※2026年はゴクハナの投稿をメインに活動していく予定です。

 

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