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雨となみだの花子さん 4

 つぎの日の夜――。

「やっぱり、ここにいた」

 ()(だい)の入口から声をかけると、極導きわみちがこちらに顔を向けた。

「部屋に行ってもいないから、ここにいると思って来たの」

 はなは極導のそばへ行くと、手すりにもたれかかって夜景をながめた。

流兵衛りゅうべえのこと、考えてた?」

「ああ。なんで、あんなことになっちまったのかなって」

「あの人は変えちゃいけないものまで変えちゃったんだよ」

 流兵衛が守ってきた町を見ながら、花子は言った。

「人が変わっていけるのは、心の芯に変わらないものがあるから。それを壊してまで変わろうとするのは進化でも(へん)()でもなく、ただの崩壊だよ」

「やっぱギャルってすげえな」

「ミッチーが強く変われたのは『日常を守りたい』っていう変わらない想いがあったからだよ。だからミッチーはあの人みたいにはならない。わたしが保証する」

「もし、なったら?」

「そのときは思いっきり張り手してあげる」

 言ったほうも言われたほうも、おかしくて笑った。

「ねえ、ミッチー」

「なんだ?」

「ミッチーの好きな人って東浄(とうじょう)先生でしょ?」

 極導は一瞬おどろいたようだが、

「ああ」

 素直(すなお)に認めた。

「どうしてわかった?」

「ギャルの勘……っていうより女の勘かな」

「さっき黒峰(くろみね)さんから連絡が来たよ。きょう一日、記憶を消した東浄先生を観察していたけど、何も問題はないって」

 魔廻(まわ)りには、怪異に襲われたときの記憶を被害者から消さなければいけない決まりがある。

 だから東浄先生は流兵衛に襲われたことを憶えていないのだ。

「あの人、もしかしたら、おれの初恋の人かもしれないんだ」

 極導の目は町の灯りではなく、遠くの闇を見つめていた。

「10歳のころ、仲のいい友達が入院したことがあってさ。そいつが退院する日に、おれ、退院祝いにみたらし団子を持っていったんだ」

「みたらし団子……」

「ああ。店の商品じゃなくて、おれが自分でつくったやつだよ。あのときのおれ、マジでガキだったからさ、包装とかしないで、そこらへんにあったパックに入れて持っていったんだ」

 恥ずかしそうに極導が頭を掻いた。

「病室に向かってるとき、黒くて長い髪をした、すごくきれいな女の人を見つけたんだ。歳はいまのおれらと同じぐらいだったよ。その人を一目みた瞬間、世界に色が増えたような気持ちになったんだ。この世にこんなきれいな人がいるのかって」

 気づかないうちに、花子は胸に手を当てていた。

 胸の奥が異様に熱い。

 みたらし団子。黒くて長い髪の女性。

 それってもしかして……。

「その人があんまりにもきれいすぎてさ。気づいたら、おれ、みたらし団子を押しつけてたんだ。で、友達には何もわたさないで帰ってきた」

「…………」

「実習初日に、はじめて東浄先生を見たとき、もしかしたらって思ったんだ。あのとき16歳ぐらいなら、6年経って、ちょうどいまの先生と同じぐらいになる。それもあって、おれ、東浄先生のことを初恋の人だと思って――いや、初恋の人だと思いこみたかったんだ」

 そこで極導はためいきをついた。

「けど先生には彼氏がいた。イケメンで背が高くて、おれなんかが足元にも及ばないぐらい、いい男だったよ」

 極導はにじんだ目で夜空を見あげると、

「あの人なら、きっと先生をしあわせにしてくれる」

 指でそっと目をこすった。


 そうだ。そうだったんだ。

 いま、やっとわかった。

 すべてはこの人と出会うためだったんだ。

 病院で男の子からみたらし団子をもらったことを憶えていたのも、その夢を何度も見てきたのも、すべてはミッチーと出会うためだったんだ。

(わたしが幽霊になったのは、ミッチーのそばにいるためだったんだ)

 心がいっぱいになって、咲き乱れた想いが花子の目からこぼれ落ちた。

「ま、あれぐらいきれいな人なら彼氏ぐらいいても――うわっ!」

 花子を見た極導が、おどろいてあとずさりした。

「お、おまえ、なんで泣いてんだよ!?」

「だって……だってぇ……」

 ぬぐってもぬぐっても、なみだがあふれてくる。

 大切な人の自分への想いを知って、うれしさが湧きあがってくる。

「ええと、ほら、あれだ。にらめっこしよう。あ、にらめっこって笑っちゃいけないんだっけ。ええと……笑わせる遊びって何があったかな」

 あわてふためく極導がおかしくて、花子は泣きながら笑いそうになった。

 でも、いまは泣くことに専念しよう。

 泣いて、泣いて、泣きまくって。

 立派なイケメンに成長した、あのときの男の子を思うぞんぶん困らせてあげよう!


(つづく)



このあと、21時に最終回を投稿します!

※いままで様々な怪異(と相撲)について紹介してきましたが、最後は、やはり『トイレの花子さん』で締めたいと思います。

言うまでもなく、トイレの花子さんは日本全国の学校のトイレに出現する怪異であり、怪談界のスーパーヒロイン!

原型は1950年ごろから広まった「三番目の花子さん」という都市伝説だと言われています。


花子さんについては様々な話がありますが、もっとも有名なのは学校の校舎の3階にあるトイレの3番目の扉を3回ノックして「花子さん、いらっしゃいますか?」と言うと「はい」と返事してくれるというものでしょう。

その後、返事のあった扉を開けると、赤いスカートを穿いた、おかっぱ頭の女の子にトイレに引きずりこまれると続いています。


そのほかにも「花子さん、遊びましょ」と呼びかけ「何して遊ぶ?」と言われたときに「首絞めごっこ!」とこたえると、花子さんに首を絞められて殺されてしまうというショッキングな話もあります。


ちなみにトイレの花子さんには家族もいて、兵庫県では、花子さんの父、母、花子さん、花子さんの妹、弟が女子トイレの1~5番の個室にいて、男子トイレの2番目には花子さんのおじいさんがいるという噂もあります。

また、はなはなという親戚もいるそうで、毎年、群馬県にあつまっては集会を開き、「花子一族」のその年の方針を決めているそうです。



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