雨となみだの花子さん 3
水虎となった流兵衛はうしろ足で立ちあがると、ふたりに飛びかかってきた。
「ふたりまとめて殺してやる!」
いきおいはある。だが動きは直線的で読みやすい。
爪の一撃を避けると、極導は両刀で流兵衛の横腹を斬り裂いた。
瑠璃色の水しぶきが飛び散り、流兵衛の動きがとまる。
そこへ花子の張り手が炸裂。
流兵衛の頭が破裂して、勝負はついたかに思われた。
しかし――。
「そんなんじゃ、おれは殺せないぜ」
川の水が宙に舞う。
その水を吸収して、流兵衛の頭が再生した。
「水虎は水の妖怪。痛みを感じないし、水さえあれば、どんな傷でも治すことができる」
流兵衛が、かぎづめのかたちをした尻尾を花子に振りおろした。
「花子、避けろ!」
回避と同時につっぱりを繰りだす花子。
だが、水のからだを持つ流兵衛には効果がない。
(どうすれば、あいつをたおせる!?)
攻撃をしかけながら、極導は考えた。
考えろ。あいつをたおす方法を。
町を、人を、そしてみんなのいる日常を守るために。
「いくらやってもムダだ。進化したおれをとめることはできない」
進化。
その言葉がなぜか頭にひっかかった。
(進化……そうか、進化だ)
その瞬間、勝利の光がひらめいた。
(やつが進化したのは1週間前。間にあうか!?)
だが攻撃の通らない流兵衛をたおすには、この光に懸けるしかない。
(そうだ、やるしかないんだ)
爪を振りあげる流兵衛。
その横腹にふたつの刀を突き刺すと、極導は自身の霊力を流兵衛のからだに流しこんだ。
* * * * *
進化して間もない妖怪は霊力が不安定で、他人の霊力を取りこめば、たましいが消滅する恐れがある。
その可能性に極導は懸けたのだ。
霊力を流しこまれた流兵衛が、
「うおおおおお!」
壮絶な悲鳴をあげた。
(いける。まだ霊力が安定しきってないんだ)
だが、ここまでで極導もかなりの霊力を消費している。
流兵衛のたましいを消滅させる前に、こちらの霊力が枯れてしまうかもしれない。
「きさまぁ!」
流兵衛が尻尾を槍に変えて、極導を刺し殺そうとした。
「ミッチー!」
花子が尻尾をつかんだ。
「花子、霊力を流しこめ。こいつのたましいを消滅させるんだ」
「わかった」
尻尾に霊力を流しこむ花子。
ふたりの霊力を流しこまれて、流兵衛のからだが溶けはじめた。
「う、ぐぅ……」
ドロドロになった流兵衛の頭が川原に落ちる。
それを追うように瑠璃色の手足が落ち、溶けたからだが蒸発しはじめた。
* * * * *
流兵衛が最期に見たのは柳井啓太だった。
雨に打たれる極導の背後に、青白い光をまとった柳井が、こちらを見ながら立っているのだ。
けど、その表情が何を語っているのかはわからない。
顔が見えないのではない。
柳井の表情は自分のすべてを否定しているようにも、受け入れてくれているようにも見えるのだ。
(ほんと、あんたに出会えてよかったよ)
柳井と出会わなければ、こんな無様で最悪な死に方はできなかっただろう。
だから流兵衛は柳井と霊盃をかわしたことも、彼を殺したことも後悔していない。
(旦那、あっしもそっちに行きますぜ)
流兵衛のたましいは満足しながら、この世から消え去った。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。
明日は19時と21時に2つエピソードを投稿します。
※本来、水虎はからだが鱗に覆われた3歳ぐらいのこどもの妖怪です。
名前に虎という字が入っているのは膝頭に虎の掌爪のようなものがついていることに由来していて、日本では昔から河童の仲間、あるいは河童のような妖怪として紹介されてきました。
では、なぜ本作の水虎はこどもでも河童でもなく、虎のすがたをしているのか?
それは「ゲゲゲの鬼太郎」のアニメに出てきた水虎が虎のすがたをしていて、そのイメージが頭に残っていたことと、単純に「河童よりも虎のほうが、かわうその正統進化っぽくてカッコいい!」と思ったからです。
ちなみに明日、11月9日から大相撲11月場所(九州場所)がはじまります。
2025年最後の本場所なので、興味のある方はテレビやサブスクなどで、ぜひご覧になってください。
推しの力士――推相撲さんを見つけると、人生が化粧まわしのように鮮やかになること間違いなし、いや、待ったなし!




