雨となみだの花子さん 1
「たす……け……」
ふり絞って出した一華の声が、川の流れに掻き消される。
(これで終わりだ)
流兵衛はさらに指に力をこめた。
* * * * *
そのとき、
「はあああ!」
闇のなかから、黒い影が流兵衛に飛びかかった。
あわてて流兵衛が一華から飛び退く。
黒い影の正体は花子だった。
「だいじょうぶですか! しっかりしてください」
花子はかがんで、一華――東浄先生に声をかけた。
「……つぼみ」
花子を見た東浄先生は小さな声でつぶやくと、そのまま意識をうしなった。
「だいじょうぶ、脈はあります」
駆けつけた豆蔵が脈をとりながら言った。そのとなりには極導もいる。
「豆蔵さん、先生を連れて安全な場所へ」
「はい」
豆蔵は東浄先生を背負うと、その場から走り去った。
(こいつだけは許せない!)
花子はこぶしを握って、流兵衛をにらみつけた。
(あの慌てぶりからして、きっとミッチーは東浄先生のことが……だから、こいつだけはぜったいに許せない!)
* * * * *
「流兵衛、あんただけは許さないぜ」
影で黒影刀を、そしてわずかな月光で白明刀をつくり、極導は戦闘態勢をとった。
「まさか若にかぎつけられるとは思いませんでしたよ」
「柳井さんと薪積萌華を殺したのは、あんただな」
「ええ。ふたりともあっしが殺りました。もっとも柳井の旦那の首を斬ったのは銀二――若と殺りあった鎌鼬ですがね」
「柳井さんを殺したのは、魔廻りの内部情報を銀二に提供したのがバレたからか?」
「いんや。あいつとは旦那を殺した日にはじめて会ったんです。情報を提供したのは殺人のあとですよ」
「じゃあ、どうして柳井さんを殺したんだ!」
極導は刀をかまえながら、流兵衛ににじりよった。
「こたえろ。なぜ殺した!」
「変わりたかったからです」
「え?」
「変わりたかったんですよ、あっしは。だから旦那を殺したんです」
「……どういうことだよ」
刀の切っ先が震える。自分でも動揺しているのがわかった。
変わりたい。
それはかつての――いや、魔廻りとなったいまでも極導の胸にある想いだった。
(つづく)
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