なぐさめの花子さん 6
極導が屋敷にもどってきたのは午後1時過ぎだった。
「あ、ミッチー、おかえり」
ちょうど門のところにいた花子が出迎えてくれた。
「ん~」
「なんだよ?」
「ミッチー、ショックなことあったでしょ」
東浄先生に彼氏がいたことを思いだして、心臓が跳ねた。
「べ、べつにショックなことなんてねえよ」
「嘘だ~。好きな子が彼氏といっしょにいるところを見ちゃったような顔してるもん」
「なっ!? おまえ、なんでそれを――」
「え?」
花子が目をぱちくりさせた。
「もしかして当たってた?」
「ああ。まさか見てたわけじゃないよな?」
「見てはないけど……なんか、ごめん」
「あやまる必要なんてねえよ。けど見てないものを言い当てるんだから、ギャルの勘ってすげえな」
「……ごめん」
「だから、あやまんなって。昼飯まだだから食ってくるよ」
そのまま門をくぐろうとする極導に、
「待って、ミッチー」
花子が背伸びして顔を近づけた。
たがいの鼻が触れるほどの近さに、ふたたび心臓が跳ねあがる。
「お、おまえ、顔が近いって!」
「決めた。わたしがミッチーのお昼ごはんつくってあげる」
「いいって。自分でなんかつくって食うから」
「傷心中の相棒に自炊なんかさせたら手組失格だよ。だからお昼ごはんはわたしにつくらせて」
「まあ、そこまで言うなら……」
「できた料理はあとで持っていくから、部屋で待っててね」
それから数十分後――。
「ミッチー、お昼ごはん持ってきたよ」
運ばれてきたご膳には、ひややっこ、きゅうりの酢の物、玉子焼き、あとオキアミの佃煮を混ぜたご飯を握った、あみめしおむすびが載せられていた。
「お昼の残り物もあるけど、おむすびと玉子焼きはわたしの手づくりだよ」
「うん、うまい。玉子焼きなんて完全にうちの味だ」
「ありがと。ちなみに、あみめしは昭和の角聖って呼ばれた横綱・双葉山の大好物だったんだよ」
「おまえといると相撲に詳しくなるよ」
「ねえ、ミッチー」
「なんだ?」
「お膳とりにくるのも手間だし、食べおえるまで、ここにいてもいい?」
「べつにいいけど……」
「じゃあ、いるね」
花子はたたみに寝そべると、ぐーっと伸びをした。
(こいつなりに気を遣ってくれてんだな)
きっと花子は傷ついた自分に寄り添おうとしてくれているのだろう。
そう思って食べる料理は胃だけでなく、心にまで染み入るような気がした。
「そうだ、ミッチー。新商品、何をつくるか決まった?」
「いや、まだだ。アイデア自体はいろいろ浮かぶんだけど、どれもすでにあるようなのばっかでインパクトに欠けるんだよな」
「なるほど、インパクトか」
花子が腕を組んだ。
「あ、いいの思いついた。長~い串に、まっしろな団子を15個刺して、全勝団子なんてのはどう?」
「全勝? 団子を串に刺しただけで、なんで全勝なんだよ?」
「大相撲の本場所は初日から千秋楽まで全15日。白い団子は白星をあらわしてて、15日ぜんぶ白星って意味で全勝団子!」
「なるほど。たしかに団子が15個も刺さってたらインパクトはあるだろうな」
「でしょ?」
「でも刺さってるのが、ただの白団子じゃ目新しさがない。採用はきびしいかもな」
「あちゃ~、ダメか」
「でも相撲からアイデアを得るのはいいかもしれないな」
「ほんと?」
「ああ。ギャル目線もいいけど、スー女目線のアイデアも、もしかしたら今後の商品開発に役立つかも」
「よーし、それじゃあ、はりきって考えちゃうぞ。まずは――」
「ちょっと待て。出したアイデアをノートに書き貯めておくから」
急いで食事をすませると、極導は花子の出したアイデアをノートに書き連ねた。
そのアイデアだが……
あんバター重ね餅
力水飴
大銀杏まんじゅう
徳俵わらびもち
雷電おこし
土俵どらやき
鉄砲柱ようかん
心技鯛焼き
まさに相撲づくし。国技館の売店かと思うようなラインアップである。
「実際に商品化できそうなのある?」
「それはまだわからないな。でもアイデアはじゅうぶん貯まった。花子、ありがとな」
それはいろんな意味が詰まった「ありがとな」だった。
「どういたしまして。困ったことがあったら、いつでも力になるよ。わたしはミッチーの手組なんだから」
そのあと、花子はお膳を持って部屋を出た。
(あいつが手組でよかった)
自分でも思うが、つい先日までギャルを手組になんかできないと言っていたのが嘘のようである。
「手組か……」
霊盃をかわした怪異との対等な関係をしめすため、御手洗家では手先ではなく、ずっと手組という言葉を使ってきた。
手組。
その言葉をページの端に書いてみる。そのとなりに御手洗の字も。
「手組……御手洗……みたらし団子」
それらの言葉が手をつなぐように結びつき、とある菓子のイメージが頭のなかに浮かびあがった。
手組団子
いつのまにか極導は新しいページにそんな単語を書いていた。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。
※第35代横綱・双葉山は前人未踏の69連勝という偉業を達成した力士で、この連勝記録は令和の時代になっても破られていません。70連勝をかけて挑んだ取組で黒星を喫しますが、その日の夜、知人に宛てて「我、未だ木鶏たりえず」という電報を打ったエピソードは好角家・相撲ファンのあいだで語り継がれています。
そんな双葉山の好物はあみめし。
これは醤油やみりん、生姜などで甘辛く煮たオキアミの佃煮を炊きたてのご飯に混ぜたもので、稽古や巡業の合間に地元に戻ると、双葉山はかならずあみめしを食べていたそうです。
現在でも双葉山の故郷、大分県宇佐市や中津市では、彼の偉業とともにあみめしが語り継がれ、学校給食にも取り入れられています。(農林水産省HPより)




