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なぐさめの花子さん 1

「あ、あの!」

 声をかけたのは10歳ぐらいの少年だった。

「こ、これ、よかったらどうぞ」

 持っていたみたらし団子のパックを(はな)()に押しつけると、少年は急いで病棟の奥へ走っていった。


 ーーここで目が覚めた。

(また、あの夢だ)

 知らない病院で、知らない少年からみたらし団子を押しつけられる。

 このワンシーンだけの夢を花子は幽霊になってから何度も見てきた。

(先代は生前の記憶だって言ってたけど、なんでこんなことをおぼえてるんだろ)

 幽霊には生前の記憶がない。

 だから花子は自分の本当の名前も知らないし、なぜ相撲が好きなのかもわからない。

 唯一、憶えているのがこの夢なのだ。

 幽霊になってからの最初の記憶は先代トイレの花子さんと出会ったときのこと。

 S県のとある廃校で彼女と出会い、たがいに歳を取らないまま、6年間いっしょに暮らしてきたのだ。

(先代と会ったとき、そういや、わたし、まだギャルじゃなかったっけ)

 黒髪時代の自分を思いだしながら、花子は染めた髪を指先にからませた。

 幽霊になったときから、花子はギャルに憧れていた。

 理由はわからない。

 けど、とにかくギャルになりたかった。

 髪を染めて、肩とおへそを出して、ホットパンツも穿()いてみたい。

 そのことを先代に話すと、

「おもしろそうじゃない。やってみれば?」

 あっさりと認めてもらえたのである。

(ギャルに憧れるスー(じょ)か。生前のわたしって、どんな子だったんだろ)

 そんなことを考えながら、ふとんから抜けだした。

 時刻は午前4時。

 じゅうぶんすぎるほど早起きだが、いつもの服に着替えて、花子は道場に向かった。

「おはよう、ミッチー」

 道場では極導きわみち黒影刀(こくえいとう)で素振りをしていた。

「あいかわらず早いね」

「そういう、おまえもな」

「相撲は朝稽古が基本だからね。さ、手組(てぐみ)の横綱めざして、きょうもがんばるぞー」

 軽くほほをたたくと、花子は日課の1000回四股踏(しこふ)みに取りかかるのだった。


 *  *  *  *  *


 その日の夕方――。

 極導きわみちは放課後の教室に残り、ひとりで雑誌を読んでいた。

(くそっ、チョコミントおはぎもすでにあるのか)

 手元のアイデアノートに、またひとつ×をつける。

 極導が読んでいるのは『ネオ()菓子(がし)(ひゃく)(ちん)』。

 ネオ和菓子と呼ばれる進化系和菓子を特集した雑誌だ。

(新商品に必要とされるのはドラゴンフェイス最中もなかやクリスタル()(はく)(とう)みたいな斬新さだ。インパクトのある菓子じゃないとプレゼンで採用されるのはむずかしい)

 極導がネオ和菓子を研究しているのには理由があった。

 それはいまから3日前――契約式(けいやくしき)の翌日のことである。

「極導、新商品を開発しろ」

 総導すべみちがそう言ったのは、朝食の席でのことだった。

魔廻(まわ)りの仕事も大切じゃが、わしらの本業は菓子で人を笑顔にすること。いずれ〈甘極堂(かんごくどう)〉を継ぐ者として、新商品のひとつぐらい開発してみろ」

 極導とて和菓子屋の子ども。

 いずれ自分が〈甘極堂(かんごくどう)〉を引き継ぐ自覚はある。

「ただアイデアを出すだけでは開発とは言わん。プレゼンでみんなを納得させて、実際に商品として売りだせるものを考えろ。いいな?」

「わかった。予約が殺到するぐらいの人気商品を考えてやるよ」

 そう(たん)()を切ったものの、そんな商品のアイデアがかんたんに浮かぶはずもない。

「ダメだ。なんも浮かばねえ」

 疲れて雑誌を閉じると、

「わかる。そういうときってあるよね」

 あわててうしろを振りかえると、すぐそばに東浄(とうじょう)いち先生が立っていた。

東浄とうじょう先生! どうしてここに!?」

「職員室に行く途中で、たまたま教室をのぞいたら、御手洗(みたらい)くんを見つけちゃったの。で、声をかけた」

 東浄先生は今年23歳になる教育実習生。

 清楚感のある長い黒髪と端整な顔立ちで、一部の男子から絶大な人気をほこっている。

 そして何を隠そう、極導も彼女に想いを寄せるひとりである。

「ねえ、御手洗みたらいくん」

 東浄先生は極導に顔を近づけると、

「ありがとね」

 そっと耳元でささやいた。

(はら)()()先生にセクハラをやめるように言ってくれたの、御手洗(みたらい)くんでしょ。おかげで原須目先生、きょうはわたしにまったく近づこうとしなかったもん」

「れ、礼なんていりませんよ。おれは、ただ当然のことをしただけです」

「いちおう聞くけど、暴力は振るってないよね?」

「はい。ちょっと強い言葉で注意しただけです。屋敷やしきの者といっしょに」

 極導といっしょに注意したのは(いの)()(かず)()()鹿(じか)(こう)()(ちょう)()(しょう)(ぞう)(いの)鹿(しか)(ちょう)トリオ。

 魔廻(まわ)りのなかでも特に顔の怖い3人に詰め寄られて、原須目先生もかなり恐ろしい想いをしたにちがいない。

「あの、先生」

 東浄先生とふたりきりで話せる機会なんて、これを逃したら二度とないかもしれない。

 その焦りが、好きという想いをつたえる引き金に指をかけた。

「す、す、す……」

「す?」

「好きです」

「えっ」


(つづく)


更新は毎日おこなう予定です。

※おはぎと言えば粒あんやきなこが有名ですが、最近ではココナッツバナナおはぎやキャラメルナッツおはぎ、インパクト抜群の焼きトウモロコシおはぎなど多種多様な進化系おはぎも登場しています。

ペンネームに使っているぐらいなので、もちろん筆者はおはぎ(というより甘いもの全般)が大好物です!

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