23話:女子って……怖い。
……数秒の沈黙。そして。
「女子って怖ぇ……」
野田がぽつり、とつぶやいた。それに思わず、うんうん、とうなずいてしまう。
そして彼は、
「つか何で女子の間でそんなうわさが流れんだよ?女子って喧嘩系嫌いじゃねーのか?」
不思議そうにそんな言葉を口にした。自分の舌の上で、何度も言葉を転がしているように見えた。
「あー……」
カヨが少し気まずそうな顔をする。
「そーゆー女子には噂流れてないと思うよ。他の子が気を使ってくれて」
「ふーん。……でも噂が流れてるっつーことは、誰かに見られてたってことか。……やっべーな」
むぅ、と野田が唸る。俺は、野田とカヨのやり取りを黙って見ているしかなかった。
「何がやばいのよ?」
「いや……昨日喧嘩した奴に、もしその女子の顔が知られてたら……お前だってヤバいと思うだろ?」
「……そうね……」
カヨも、むむぅ、と唸る。
そして、
「あ、でも。その子遠くから見てたよ?」
「……何でお前が知ってるんだよ」
野田が、呆れたようにカヨのことを見た。カヨが、顔を伏せる。
「……見てたんだな?」
野田が、呆れた口調でカヨに向かいこう言った。
「……うん」
顔を伏せたままうなずく、カヨ。
「ほんっとに誰にも気づかれなかったか?」
「……うん」
カヨの顔が明らかに曇っていた。……初対面の俺でも、これくらいは分かる。
――カヨは、何かを隠している。
「……ふーん。ならいいけど」
野田は、カヨからプイ、っと目をそらした。何か、怒ってるような感じだ。
ちらり、とカヨの顔を見てみる。カヨの表情は、やっぱり曇っているように見えた。
「赤井、帰ろーぜ」
「え、野田……」
カヨと目が合う。
「っ……」
カヨは心底困ったような顔をして――、
「まぁ、あたし帰る。じゃぁね、ヤス――と、赤井君」
バイバイ、と手を振り帰って行った。
「何だよあいつ……」
野田が不満そうに、実に盛大にため息をつく。
そして、
「まーいっか。赤井、山崎んとこ行こうぜ。……あいつぶっ殺さなきゃなんねーしさ」
爽やかな笑顔でこう言い、俺の肩に手をまわしてくる。
「……おう」
首絞められそうな状況で、俺はうなずくほかなかった。