14話:茜色の空
「っあーもー……」
帰り道。
俺の気持ちはまだ落ち着かず、何だかむしゃくしゃしていた。
「ッ……! 一体何なんだあいつはっ……!!」
地面の石ころを思い切りけとばす。
石ころはふわ、っと草むらに落ちた。
……草むら?
顔を上げ、周りを見回してみる。
「あっ……」
そこは、昨日野田と来た河原だった。
なぜか体が強ばる。
「……んでさー、俺赤井にちょっと・・・・なんだけど……気にしなくていいと思うか?」
「赤井なら・・・・だろ。俺はあいつと・・・・張ったらいい勝負なんじゃないかと思ったからなー。あんなオーラのやつ初めて見た・・・・」
声はぼそぼそと喋っているようで、よく聞こえない。ただ、声には聞きおぼえがあった。
「……?」
俺は、河原の中へ、ゆっくりと歩いて行った。声はどんどん近くなっていく。
「まぁ、お前が気にしてるんなら、早くカタつけに行けばいいんじゃねぇの? お前の問題なんだし」
「それもそうだな……」
河原には、予想通りというかなんつーか……野田と山崎がいた。川をバックに立って話している二人の姿は、迫力があった。何か上手く言い表せねぇけど。
「おっし……じゃ、俺赤井んとこ行ってくるわ! あんがとな、山崎!」
野田が河原をかけ上ってくる……って、
ヤバいっ!!
これじゃあ俺が盗み聞きしてたことがバレ――
「おっ。ちょうどいいとこにいた、赤井」
バレた…………。
俺は海よりも深く通り過ぎる風よりも長いため息をつき、その場に背中から倒れ込んだ。
……なぜかって?
そりゃぁ死んだふりをするのが一番だからだ。
「……あ、赤井っ!? 大丈夫かっ!?」
野田が俺のことを必死にゆすってくる。
……騙されるな、俺。こういうときは死んだフリが一番なんだから……。
「や、山崎!! 赤井がっ!」
野田が、そこに立っている山崎のことを呼んだ。
「何だようっせーな……」
山崎がダルそうにしてこちらに歩いてくる音が聞こえた。俺は目を半開きにして、状況を確認する。
「うっせーなじゃねーよ! 赤井がっ!」
「赤井がどーしたっつーん……うおっ!」
山崎が飛び退く……ような気がした。
「何でこんなとこに倒れてんだよ?」
「し、知るわけねーだろ! 何か突然倒れて……」
「……分かった」
山崎が、ぼそっとつぶやきながら何やら考えているような気がした。……とてもじゃないけど、この状況で目を開けることなんてできない。
どごっ。
俺はこの時、自分の身に何が起きているのか分からなかった。
……突然、腹のあたりに衝撃が来たのだ。
「ぐッ……!?」
最初、俺はそれが痛みだということに気づかなかった。
だって、尋常じゃないくらいの力だったんだ、マジで。
「……ん、起きねぇな」
どがっ。
今度はさっきより強い衝撃が頬に来た。……てかこいつぜってー手加減してないよな!?
「もーう……」
山崎が3発目の蹴りを繰り出そうとしてきたとき、俺は耐えられなくなり、のっそり起きあがった。
「いってぇ……」
起きあがってみると、鈍い痛みが残っているのに気づいた。
『あ、起きた』
野田と山崎が声をそろえ、俺のことを見つめる。
「…………」
あまりにも二人が静かに俺のことを見つめてくるので、俺は睨みつけるようにして二人のことを見
た。
「……何だよ」
背中と尻を軽く払いながら、ゆっくりと立ち上がる。視線を二人から外すと、そこには綺麗な茜色の空があった。
「うわぁ……」
思わずため息がこぼれてしまう。俺が前住んでいた所でも見れなかった、息をのんでしまうほどの綺麗な茜色の空。
「ん? どうしたんだ?」
野田の声が聞こえてきたような気がしたが、俺はそれを無視して、茜色の空に見入っていた。
「……?」
不思議そうな顔をしながら、野田と山崎が、俺の見ている茜色の空に目をうつす。
……と。
「……夕やけ?」
野田の不思議そうな声が聞こえてきた。きっと、野田にとっては何てことのない光景なのだろう。そ
れに、おそらく他のやつらにとっても。
でも、俺にとっては普通ではなかった。
少なくとも今の俺にとっては、この茜色の空は、特別に感じられた。
なぜかはわからないけど。