13話:怒りと不安
放課後。俺は、龍野に声をかけてみることにした。
「あのッ、た、龍野くん……」
これはなかなか勇気がいる。だって……何か龍野って、殺気を身にまとってるんだもん。
「ん? ……赤井くん、どうしたんだ?」
龍野がやけに優しく応対してくれた。朝に感じた殺気が嘘のようだ。
「えっと……ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
俺がそういうと龍野は持っていたカバンをぎゅ、っと強く握りしめ、
「うん。もちろんいいよ」
笑顔でこう言ってくれるのであった。
「……ありがと。あのさ……」
「ん?」
「君って、もしかして俺のこと嫌ってる?」
……聞いてから後悔した。何ちゅー意味わかんねーことを聞いているんだ俺は!! てか面と向かって
言うことじゃないだろ!
なんだか泣きそうだ。こんなこと聞いて龍野を怒らせたら――、
「うん。嫌いだね」
ん……? 気のせいだろうか。今龍野の声が聞こえたような気がする。しかも、はっきり『嫌い』って
言ってた。
「まぁ、そうはいっても俺はまだ赤井君のことあんまり知らないけど。でも、そんなこと自分で聞いてくる奴は……俺はそんなに好きじゃないな」
龍野が、苦笑いしていた。その笑みは、朝感じた殺気に似ているものがある。
「……はぁ」
でも、そんなに悪い奴には見えないんだよな、なぜか。
「まぁそんなに君のことは好きじゃないけど……とりあえず転校生クンには、俺の野望でも話しておくかー」
龍野が、空に浮かぶ雲を見つめる。
「あのな、俺には、野望があるんだ」
「……?」
「まぁいきなりこんなこと言われても分かんねーよな。んまぁ、その野望っていうのが、」
龍野の目は真剣で、やっぱりどこか殺気を感じる。なんかさー、目力?ってゆーのがすごいんだよなー。
「この学校を、すごくいい学校にしたい、って野望なんだ」
……いい学校、か。こいつ意外とよさそうな奴じゃん。
「へぇ。それはそれは素晴らしい野望をお持ちで」
意外とよさそうな奴だけど……いい学校にしたいとかそういうことにはあんまり興味ないな。
「……からかってる?」
龍野が、俺のことを鋭い眼で睨みつけてくる。……うぅ、怖ぇ。
「……いや」
俺はじっ、と龍野のことを見た。
「そっか。ならいい」
龍野は、すぐに俺から目をそらした。
ふぅ……。何か命拾いした。
「まぁ、俺の野望を達成するのを妨げてくるような奴は、容赦しないから。――特に、野田くんとか、赤
井君とかそこら辺の連中にはね」
今、俺の名前が聞こえた気が……って、
「はぁ~? 俺、別に龍野の野望なんか妨げてねーぞ!?」
うん、絶対おかしい。容赦しないから、ってかなり困るんだが。そして何で龍野は俺に敵意むき出しなんだぁ――っ!!
「ん……お前はいるだけで俺の野望妨げるからさ。こっちも容赦しない、ってことだ」
かなり傷つくんだが……。
そう思ったが、俺はあえて龍野にその事を言わなかった。
――なぜって?
答えは決まっているだろう。今龍野にそんなことを言ったら、何をされるか分からないからだ。
でも、俺の口は俺の考えに逆らうように動きだしてしまう。
「……は? 俺がいるだけでお前の野望妨げる、ってどういう意味だ?」
俺は龍野のことを睨みつけた。
かすかに龍野を怖がる気持ちもあったが……今はなぜか、怒りの方が大きくなっていた。
なぜなのかは分からない。でも、龍野のよそよそしい態度に、急にいらっと来てしまったのだ。
「まぁそんなこと言ったってお前には分からないだろう?」
「……っ! てめぇっ!!」
気づいたら龍野につかみかかりそうになっている自分がいた。……やっべ。何してんだろ、俺。
やっとのことで手を止めた俺は、
「じゃ、帰るわ!!」
とっとと家に帰ることにした。
ひぃ、変なことやらかしそうになっちまった……。