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仇なす不遜の者共に天誅を。安らかに眠る主人公には花束を(間3−1)

謝るなら今のうちですよ?



 北門を背に、男と女は深い闇へと飛び込んだ。彼らが選んだのは、幾筋にも枝分かれする迷宮のような細道だ。


 そこは、かつて労働者たちが行き交っていた鉱石採掘現場の跡地でもあった。国の社会構造を体現するかの如く複雑に入り組み、視界を遮る障害物で満たされている。

 数の不利を補うには最適な地形であった。

 


 

 男は黄金に光る瞳で周囲を観察した。その足音は闇に沈んだ石を微かに震わせる。巨大な体躯に似合わず、影のような靭やかさで、細道へ吸い込まれて行った。


 一方、フードを目深に被った長身の女は、地面を滑るように、その後を追う。彼女の持つ知識が、複雑な立体迷路を突き進む道筋を指し示していた。


 後方から、刺客の足音が迫る。彼らは保守派の頭目が放った長命種族の刺客だ。その数は八。それぞれが統率の取れた動きで、複数の通路から接近して来る。

 獲物の前で声を発さない彼らの《声》を男は捉えていた。


 先行していた男の背に、手が触れる。


「ついて来て」


 男が足を止め、首を捻って視線を返すと、彼女は唇と手の動きで指示を送ってきた。しかし、男は解読技術を持ち合わせない。その代わりに、伝えたがっている内容と、意思伝達に関する疑念と焦りを彼女の《声》から受け取った。


「三つ目の別れ道を左へ。その先に隠れて、やり過ごすわ」


 男は沈黙を崩さず、《声》が示すままに従った。巨大な身体が細い通路をすり抜ける。その先に崩れた瓦礫を見つけ、陰に身を潜めた。まるで迷路の一部であるかの如く、静かに闇へ溶け込む。


 刺客の先頭を走る二人が、瓦礫の散乱する通路へ曲がって来た。彼らの紅い眼が暗闇を射抜き、獲物を探す。しかし、何の痕跡も捉え切れずに通路の奥へ消えた。男と女は息を潜め、追手たちが完全に通り過ぎるのを待つ。


 残りの六人が、別れ道に差し掛かった辺りで足を止めた。彼らの《声》が互いに疑念を伝達し合う。


「気配が途切れた」


「臭いは残っている。近いぞ」


 二人が先行して入った通路とは別の通路へ三人が入って行き、残る三人は近辺を探索し始めた。

 


 

 肘上まで覆うグローブの装着を終えた女が、香水瓶の中身で湿らせたハンカチを男に、そっと手渡す。彼女の《声》が状況を伝えてきた。


「右から三人来る」


 間もなく右の通路から三人の刺客が現れた。彼らは周囲の闇に眼を凝らし、標的と、その痕跡を探している。


 男は隠れていた瓦礫の陰から、音もなく滑り出した。刺客の一人が微かな空気の揺らぎを肌で感じ取り、顔を上げる。しかし、その反応は一瞬遅かった。


 女が香水瓶を取り出し、刺客の背後から口元を狙って、瓶の薬を吹きかける。不意を突かれた刺客は声を上げる間もなく、その場に崩れた。

 力を失った手から鞭が滑り落ちる。それを女は素早く掴み、物音で他の刺客達が集まる危険を排除した。


 残る二人の刺客の紅い眼に、驚愕と恐怖、加えて僅かな困惑が宿る。男が彼らに視線をやると、その身体は戦慄に震え身構えた。


 一人は小型の弓を構え、残りの一人が仲間へ合図を送ろうとする。例に洩れず《声》によって動きの意図を察した男は、飛来する矢を無視して、合図を送る者の腕を掴んだ。次いで、もう一方の手に隠し持っていたハンカチを刺客の鼻と口に押し当てる。


 警戒していた刺客は抵抗するが、それを抑え込もうと力を加えたことで、腕の骨が鈍い音を立てて砕けた。男は折れた腕を解放し、代わりに相手の頭部を抑え込む。


 次第に抵抗する力は弱まり、全身から力が抜けていく。

 

 

 

御免なさい。力加減を間違えました。ワザとではないので許してください。お詫びに、高嶺の華の香りをご堪能くださいませ。

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