聖域につき、武器の持ち込みは固くお断りさせていただきます。フルーツナイフはOK(5−5)
アナタの大切な人は誰ですか?
北門の看板を越え、少し開けた場所に出た。
「この看板は良い目印になるわね。人避けの呪いも、今は切れているから、役に立たない」
遠回しな忠告の後、フードを被り直した彼女は、今度こそ別れの言葉を紡ぎかけようとする。
先に男が口を開いた。
「不躾で悪いが、もう暫しの間、付き合って貰うぞ」
低く唸るような声で告げる男は、前方の暗がりを睨み据えた。彼女は周囲を警戒して、その気配に気付き、正確に状況を理解する。
まだ姿こそ見えてはいないものの、ただならぬ気配が接近していた。
「私を囮に使うの?」
そう言って彼女は、ゆるやかに流れるような白銀の髪を耳に掛ける。
「金属音ね。それも、複数……」
気配と音を数えながら、この場を凌ぐ方法を彼女は模索していた。見つかる前ならば逃げ切ることは容易だ。しかし、気掛かりを残したまま立ち去れば、新たな後悔を生み、此処まで足を伸ばした意味がなくなってしまう。
「執着すれば、あの子を危険に晒すわ」
突き刺すような鋭さが滲んだ咎めるような声色。それは、現状に対処した先で待つであろう未来の危機。彼女なりの「大切に思うならば離れるべき」という警告であった。
「引き留めて悪かった」
それを受けた男の眼に、見る者の背筋を凍らせるほどの危険な光が宿る。彼女は、それを見逃さなかった。呆れたように小さく溜め息を溢す。
「まさか、淑女を独りで帰らせるなんて、紳士ならしないわよね?」
教え子を優しく諭すような口振りで囁く彼女に、男は少し逡巡する。考えを見透かされたことに対する驚きと戸惑い。持ちかけられた提案によって、先程の決意に揺らぎが生じた。
彼女は柔らかく微笑み、小首を傾げて返答を待っている。
「手伝ってくれるか?」
言葉を選びながら、男は三度その手を伸ばした。
「ええ、私で良ければ喜んで。貴方と組めるなら心強いわ」
ダンスの誘いにでも応じるような動きで手を重ねる。その瞬間、互いの眼が僅かに交わった。
二人は、それ以上の言葉を交わさぬまま、気配が満ちる闇の中へと身を翻した。
さあ、ダンスと洒落込みましょう。
足を踏まれないように、ご注意ください。
油断すると部位破壊の餌食ですよ? 不器用なんで。
この調子で、明日からも連日投稿が続きます。