彼女がハンカチの持ち主なら、靴紐の件もスッキリ解決だ(15-3)
相棒に毒見をさせる人でなし主人公、新作菓子の味見をする。
エシュはキノコ茶に飽きたと見える。茶菓子に手を伸ばす頻度も減った。この調子なら、放っておいて問題ない。
「心が通じ合っているのね」
まるで、事情を知らないかのように呟いた。彼女がハンカチの持ち主なら、以前からエシュと面識があるのは確実だ。
エシュは無口だが、隠し事に気を回す用心深さはない。注意深く観察すれば、心を見透かされている可能性が、偶然や勘違いでないことに気づけるはず。
あえて知らない振りをする理由は何だ?
「このハンカチ、貴女の持ち物ですか?」
僕は膝上の鞄から白い布を取り出した。それを見た彼女は、一瞬だけエシュに視線を走らせる。
当人はカップの湯気をぼんやり眺めていた。薬を盛られて眠気に抗っている姿に見えなくもないが、危険が迫っていない時のエシュは、いつも眠そうだ。
「ありがとう。お気に入りの一枚なの」
僕に向き直り、柔らかく微笑んだ。
「遠慮せずに召し上がれ」
そう言って、彼女は茶菓子を勧めてきた。
エシュの奇行に唖然とする常識人を装うにも限度がある。毒見はエシュが済ませた。腹を決めよう。
ほとんどは読書会でも馴染みの品だった。初見は、乾燥キノコを蜜で煮詰めた丸い菓子だ。素朴な見た目だが香りは甘く、柔らかかった。
「片割れちゃんは、国の現状をどこまで聞いているかしら?」
僕はカップを机に戻した。
「二つの勢力に分かれ、改革を求める若い人たちが勢力を拡大させていること。武力衝突が起きても不思議はない、と」
親族が噂していた受け売りだ。間違いを指摘されても、僕自身は痛くない。
「ちょっとだけ古いわね。勧誘段階は終わっているの。それなら、武力衝突が始まらないのは何故かしら?」
朗らかに次の問いを投げられた。この質問には憶測でしか答えられない。
僕は堅焼きビスケットを一枚頬張った。返答拒絶と受け取られる恐れもあったが、彼女は愉快そうに笑む。
「片割れちゃんらしい解答だわ。つまり、双方が恐れているのよ」
咀嚼音で周囲の音がかき消される中、彼女の言葉に僕なりの解釈を加えて飲み込んだ。
なるほど。
正解は沈黙。
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