『迷宮探偵ヒラメキ』が脱出系ミステリーに挑みます(14)
ファンタジー要素を消して、どうする?
郵便ポストを探して、どこへ行く?
迷宮探索は折り返しだ。そう自分に言い聞かせた途端、胸の奥の期待が急速に冷めていった。
その時、文机の燭台に目が止まった。蝋燭代わりに発光キノコを刺して使われている不人気な骨董品だ。汚れを指で拭うと、壁の刻印に似た彫り込みが浮かび上がる。
指先の感覚を頼りに文机を調べた。机の脇に突起がある。引き出しのようだが、引っ張っても開かない。鍵穴らしき溝を見つけ、燭台の細い部分を差し込む。カチッと音がして、突起を引く。軋む音とともに、中から布張りの冊子が現れた。
貸出台帳だった。几帳面な文字が並んでいる。知った名もあり、最後のページには、こうあった。
「刻印の下、呼び鈴を鳴らすこと」
文机にも埃の下に同じ彫り込みがあり、傍の小さな矢印が壁の刻印を指し示している。その間には、人を模った彫刻の置物。この周辺だけ埃が少ない。
他は、円柱型の高い壁を朽ちかけた書架が埋め尽くしている。書簡の類は見当たらない。価値なきものだけが残され、土埃を被り、苔に侵食されている。おそらくは何十年も前から。
仕掛けが隠されてはいないかと、彫刻を動かそうとしたが、びくともしない。顔や手も、可動する箇所は見つけられなかった。
人に近いようで、首から上はない。背中には、もう一対の腕か鰭の名残りが不格好に突き出ていた。地上の生物を模したのだろうか。経年劣化か、破損か、それもわからない。
少し探せば、矢印は部屋中に点在している。壁に彫り込まれていたり、インクで書かれていたり、様々だ。
ただのイタズラかもしれない。通達書とハンカチがなければ、とっくに諦めていた。
大きな溜め息を吐き、人物像の台座に腰を下ろす。砂礫が擦れる嫌な抵抗感と爆ぜる音。台座が石床へ僅かに沈み込む。ガチンッと噛み合うような音が鳴り、土埃が舞った。
壁の刻印を見上げると、それを囲むように四角い輪郭線が浮かび、苔の一部が剥がれ落ちる。
すぐ隣で、エシュが見ていた。
「隠し扉の前に、置物があったら邪魔だよね?」
驚きと興奮の最中で、わけも分からず口走った。エシュは、扉の前から台座ごと押し退けようとするが、動かない。壊さない程度に加減したようだ。
僕は台座の上で手がかりを探し、見慣れた彫り込みと矢印を見つけた。
「こう回すんだ」
腕の動きで向きの指示を出す。エシュは無言のまま、もう一度、台座を掴む。摩擦音とともに台座が床の上で右回転する。首のない人物像の手元で、長く放置されてきた鈴がチリリと響いた。壁を背に立っていた像が隠し扉へ向けられる。
火打ち石のような音が響き、重々しい石の扉が開いていく。
真っすぐに伸びる通路が現れた。
その遥か奥で、発光菌ランプが揺れている。
鈴を鳴らしたのは像。動かしたのはエシュ。僕は、欠けた像の重量を体重で補った。適切な連携プレイだ。
明日は、お休みして、明後日から連投再開します。
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