近道しようとしたら、とんでもミッション発生(13-1)
絶対に笑ってはイケナイ空気だ。
笑ったら、あの小石のように……。
発光キノコを片耳に引っ掛け、迷路の入口に立つ。
遊んでいた頃の記憶と手元の地図を頼りに、周囲を見渡す。ザラついた壁の苔、床の傾斜、耳鳴りのような音と微かな振動。現状と記憶を擦り合わせていく。
その間、エシュは黙って待っていた。僕が進めばついて来て、足を止めれば壁の苔や天井の裂け目に視線を向ける。
小さな分岐に差し掛かった。
最近できた大穴の前で立ち止まる。地図にはないが、ここを抜けられれば、目的地まで大幅に近道できる。
壁の向こう側の足元は、瓦礫が散らかっているはずだ。
「……これ、君が壊したの?」
最も疑わしい相手を見上げて尋ねる。エシュは一瞥を寄越したが、否定も肯定もせず周囲を見やった。
地図を広げて迂回路を探すが、どれも遠回りすぎる。何日もかければ、水や食料が尽きる。
「壁の向こうに行ければ、野宿を避けられるかもしれない」
穴を見ながら提案する。
「……投げてくれる?」
エシュは無言で小石を拾い、穴の向こうへ放った。鈍い音とともに、石は向こうの壁に深くめり込み、粉塵が舞う。
目の前で起きたことを理解するのに、しばし時間がかかった。
「今のは僕の指示が悪かった。穴の高さまで持ち上げてくれるだけでいい。頼める?」
背を向けて待つと、両脇の下に手が添えられ、力が込められる。足が地面を離れ、僕は壁穴に手足を掛けて向こう側を確認した。予想通り、降りるのは簡単そうだ。
「えっと……ありがとう」
礼を添えて、瓦礫の上を慎重に降り、平らな場所に立つ。振り返ると、穴の向こう側からエシュが見ていた。その視線が標的に向かう。
不安を覚える間もなく、エシュは果敢に挑んだ。肩をぶつけ、肘で身体を前に押し出そうとして、肘もぶつけて完全に動きを止めた。
通れない大きさではないが、見事に詰んだ。
肩肘をすぼめて身を捩り、両腕を通した後で壁に手をついて残り半身を移動させる。目測から体格に見合った計画を立て、子供の遊びで培われる身体の動かし方を応用するだけ。
僕は息を吐き、声をかけた。
「一度、腕を元に戻して。肩も引く」
薄暗闇の中、黄金色の光を放つ瞳が、こちらを見ている。今は無視だ。
エシュが身体を引くと、肩と壁の縁が擦れ、小石と砂がパラパラと落ちた。
「次、左手で支えて……そう、身体を捻る。君なら壁を壊せるだろうけど、それは後々のために良くない」
時間をかけすぎると、忍耐切れで暴れ出すかもしれない。そんな前例はないが、兆候が読めないのは厄介だ。
焦りを隠しつつ、手本を見せるように自分の身体を捻ってみせる。エシュは真似して、ゆっくり巨体を動かした。岩に詰まっていた肩が、するりと抜ける。
「腕を伸ばして。引っ張るよ。痛かったら言って。皮膚と壁が直接擦れないよう、布を挟むから」
両手を繋ぎ、全力で引く。手加減すれば動かないのだから仕方ない。
「膝、曲げてたら引っ掛かるでしょうが……」
壁穴から解放されたエシュは、何事もなかったように立ち上がり、腰の外套についた粉塵を払った。
子供たちが遊びの一環で通り抜けるような穴に、つい先程まで詰まっていたとは思えない精神力。
それにしても、読書会跡地の扉の前の通路はどうやって通ったのか。見ていたはずなのに、他のことを考えていたせいか思い出せない。まさか、視線を意識すると、緊張して動けなくなるタイプなのか?
新たな謎を抱えたまま、僕たちは歩き出した。
助けを必要としているのはエシュか? 壁か?
その両方か!? 救えるのは僕だけ?




