聞き込み調査に尻込みする『迷宮探偵ヒラメキ』(12-3)
それは、己が推理力への奢りか?
あるいは……。
洗い終えたハンカチを広げ、乾くまでの間に銀糸の草花刺繍を眺める。
傍らの通達書が目に入った。女性が好んで使う私的な手紙でもないのに、文字とは異なる染料で印刷された装飾が四隅にある。公的な文書にしては妙だ。
ハンカチと通達書を並べ、発光キノコの光にかざす。重ね合わせると、刺繍と印刷装飾の輪郭が寸分違わずに一致した。
彼女との馴れ初めをエシュに問い質すべきか?
通達書を改めて透かす。紙質は上層部の役人が使うものと同じだ。誰が何の目的で細工を施したのだろう。
今になって思えば、読書会の主催者は素性を隠していた。思想や収集していた本は、権力者に危険視されそうなものが多くあった。
あの読書会は、綱渡りをするようなバランスで成り立っていたに違いない。
彼女なら、開催不能になった時のために、手を打っているはずだ。参加者との連絡手段。
通達書の模様の形に覚えがある。
僕は記憶を頼りに、脳内で地形を組み立てた。これは地図だ。示されているのは、国の外れに広がる立体迷路。子供たちの遊び場であり、待ち合わせにも使われていた場所。
彼女の用心深さを考えれば、地図の目印は、手紙や物資の受け渡し場所。取引を行うための中継拠点だろう。
繋がりを取り戻せるかもしれない。
通達書を折りたたみ、千切った葉の半分を挟む。
微動だにしないエシュに向けて声をかけた。
「場所がわかった。読書会の主催者へ手紙を出しに行く。君は、ここに残ってくれていい」
エシュは答えず、僕を見つめる。
「引き止めたいなら考え直す。納得できる理由を君が説明してくれるなら。それか、ハンカチの持ち主の情報でもいい」
沈黙が続く間に不安が募る。親の顔色に怯えていた頃を思い出した。あの頃と、何も変わっていない。
安全な場所に収まろうと背を丸める自分の姿が浮かび、少し腹が立つ。
「君の許可を求めているわけじゃない。僕の行動で君が不利益を被るなら、それは少し気の毒だと思っただけだ」
低く、そう付け加えた。
長い沈黙の後、エシュは立ち上がり、北門の方へ歩き始める。その背中を見て、緊張が解けていくのを感じながら、静かに息を吐いた。
僕らは、もう一度あの迷宮へ向かう。
過去の繋がりを手繰り寄せ、これからの僕自身の立ち位置を確かめるために。
大人の男女間の出来事にウブなだけでは?
次回、地図を片手に地下迷宮探索へ。
明後日、19日に投稿します。
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