事件のニオイに呼ばれ、『迷宮探偵ヒラメキ』再参します(12-1)
謎解きは、お洗濯の最中に。
血の臭いがした。
エシュの腰から外套を外し、水に浸す。温もりの残る布地が水面に広がる。
結び目は僕の知らない形だった。かつて僕が結んだものでも、不器用なエシュが努力して編み出したものでもない。機能的で見栄えも良い結び目だ。
いったい誰が結び直したのだろう。
僕は外套を沈めながら、疑念を胸にしまった。
水に入ったエシュは、物珍しそうに洗濯の様子を見ていた。意識が向けられていることに気づいて、チラッと視線を返してきたが、何も言わない。
問いかければ答えるかもしれない。でも、言葉が見つからず、僕は黙って手元の作業に戻った。
水中で布を揺らして汚れを浮かせる。泥や苔が繊維の隙間から剥がれ落ちていく。街の埃と燻された臭いが、黒い靄のように溶け出す。
ほつれた繊維の感触を指先で感じ取った。湖畔の見回り中に引っかけたのだろうか。
揉み解すうち、真っ黒に染められた外套の生地から、赤茶の色素が滲み出てきた。
鉄の臭いが鼻をくすぐる。前例がある以上、想起せずには居られなかった。
エシュを見やる。出会った頃と変わらず、傷一つない。
水に浸かって腕を伸ばす姿に、清潔の心地よさを理解したかと思い違いをしかけたが、水遊びを始めただけだった。
様子を見ながら、しばらく放っておこう。
エシュは一日の活動時間が長いようで、突然止まることがある。瞑想かもしれないが、油断は禁物だ。居眠りを思わせる兆しを見せたら、そっと注意しなければ。
外套を洗い終えたら、干して乾かす間に、赤い癖毛を整える予定だ。手を休める暇はない。
僕が初めて地熱岩で目を覚ました日、エシュから、同じ臭いがした。
眠っている間に何かあったのかもしれない。外套の傷と汚れは、その時のものだ。
誰かが『神の古泉』に来た? それとも、北門を過ぎた先の迷路で争ったのか?
あの崩れた壁と大穴は、人の仕業とは思えない。でも、エシュなら、できなくはないだろう。
外敵の侵入を防ぎ、自身の縄張りを勝ち残ったのだ。敵が何人いたか知らないけど、傷痕が残らないのは、エシュの体質といってもいい。
治安維持の男と出会ったのも、その頃かもしれない。
睨むような視線と声色。復讐心を抑え、職務に徹していたのだろうか。
いったい何人が犠牲になった? 彼の見ている前で、何人が命を落とした?
安心してください。
たぶん、彼が見ている前で落ちたのは、1人だけです。
月曜〜金曜まで、5日連続で投稿してます。
スローライフと謎解きに、お付き合いくださいませ。
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5. 惨酷描写ありR15エシュ。
※結果は作者がこっそり観測します。




