故意に熱湯を注いだ容疑と猫舌疑惑が浮上しています(間8)
本日も、お疲れサまル。
クルクルしているようで、手のひらでコロコロされていませんか?
「それで、会えたの?」
訪問者が要件を語るのも待たず、レヴァナリアが質問を飛ばした。差し出されたカップを口元へ運ぶサハルは、熱いと小声で溢し、一息吐いて答える。
「ああ。子供を一人、連れていた」
「白い髪の子?」
「フードを被って、顔も隠していた。同族だったかもしれない」
「その子、元気そうだった?」
「アイツが連れて行った」
カップの中身をスプーンで掻き回しながら、サハルは記憶を辿る。やがて、視線の圧力に耐えかねた彼は、不味いことをしたのではと不安を覚え始める。
「名を呼ばれていた。適当に質問を投げてくれ。思い出すかも知れん」
そう提案しつつ、キノコ茶を楽しむ彼女の表情を見たサハルは、この選択は間違っていなかったと判断して気を緩めた。
「兵舎の同僚とは、仲良くやっているのかしら?」
「上辺だけな。改革派だの保守派だの、どっちが聞き耳を立てているか分かったもんじゃない」
「笑顔よ。眉間にシワが寄っているわ」
彼女の微笑みで、サハルの熱くなりかけていた感情は急速に萎む。
「……レナ。国を守るのが俺の仕事だ。それなのに、長老会は我が身のお守りを命じてきた。しかも、鳥が食べたいって、買い出しにまで……」
燻るように愚痴を溢すサハル。そこには彼女への深い信頼があった。
察しが良くて、口が硬い。出世競争と無縁な穏健派。肩書きも血統の優劣も気にしない。そんな彼女にだからこそ話せる。本来なら口外禁止の世間話は、相談料のようなものだと。
再びカップを持ち上げると、キノコ茶は彼にとって、調度良い頃合いに冷めていた。それを一気に飲み干す。
「ハルは、この後どこへ?」
「監査報告だ。書類でな」
答えた後にも大きな溜め息を吐く。
「平和ねぇ。ハル」
朗らかに返す声には、平穏な日常を享受できている現状への感謝と祈りを伝えるような響きがあった。
「耄碌してやがるから『神降ろし』にも失敗するんだ。こんなことじゃ、国は……」
低く吐き捨てた勢いのまま、職業柄の禁句に触れかけて中断した。
「思い出した。ロエル。アイツは子供をそう呼んだ。レナの知り合いか?」
少し目蓋を伏せて思案を始めた彼女に、サハルが尋ねる。
「……破滅を予見した者の名ね。神を幻視した者とも言い伝えられているけれど。あの子たちは、共に歩くことを選ぶのね。悪くない兆候だわ」
彼女は、どこか満足気に呟いた。
知り合いかって、聞いたんだが?




