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【闇堕ち直前】主人公の色なし観察日誌1  作者: 荒屋朔市
呼び名・ロエル

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32/50

状況を説明してください。手持ち無沙汰で困ってます。主人公が(10-2)

お前さては暇か?

それなら、サクッと高嶺の華邸まで案内してくれてもイイぞ。



 読書会跡地の傾いだ扉を押し開けると、外の空気が流れ込んできた。


 埃と紙の匂いが混ざった空間から、細い通路を抜けた先を見やるが、壁しか見えない。聞き耳を立てても、喧騒との距離を測るのが精一杯だ。

 扉の前で制止され、僕は黙って先を譲ることにした。


 エシュが街の片隅へと出る。僕は、その背中を追った。看板が肩越しに見えた。文字は擦れて読めない。


 通路口を出た場所でエシュが立ち止まる。何事かと思いつつ影から、そっと覗き見た。


 古紙店の前に、長命種族の特徴を持つ武装した制服の男が一人、腕組みをして立っていた。

 


 

 待ち構えられていた。そう仮定する。


 エシュの外見は目立ちすぎるから、街を歩けば人目を引く。見ていた誰かが情報を流す。危険と判断すれば、国の治安維持を任されている武装組織が動くのは必然。


 そこまでは僕にも理解できる。しかし、一人で現れた理由が全く分からない。 


 対するエシュは堂々と立ち尽くす。

 真正面から鋭い視線に射抜かれたくらいで怯みはしないが、どう動くかは予測不能だ。


 言葉はない。ただ重い沈黙が流れる。

 


 

「一人か? サハル」


 エシュが口を開いた。サラッと名前を口にしたように聞こえたが、そんなはずはないと思って、聞き流すことにした。 


 向かい合う男は眉も動かさず、ただ一歩だけ近づく。


「お前が街で何を仕出かすか、見定めに来た」


 その声は低く、感情を抑えているようで、抑えきれない何かが洩れ出ている。一つ間違えば、惨事に発展しかねない雰囲気だ。


「商店街の視察だ」


 エシュは短く答えた。


 嘘偽りない言葉だ。僕が保証してもいい。これまでのところは、暴力に頼らず、お行儀良く過ごしていた。

 ほんの一瞬だけ目を離した気もするけど……。

 


 

 再び、沈黙が続く。


 事が済むまで、読書会跡地の部屋に引き返して、静かに本を読みたくなってきた。沈黙の圧力も、暴力も苦手だ。


 店先に並ぶ紙束の端が少しめくれ、僕を誘っている。音を立てないよう慎重に移動すれば、気づかれずに済むのではないか。


「……後ろに一人、隠しているつもりか?」


 足音には気を配ったはずだけど、僕は背筋を振るわせた。微かな衣擦れや臭いで気づかれたのかもしれない。


「迷子か? なら、俺が預かる」


 僕にとって、ありがた迷惑な提案だった。現状を説明して身元の証明に成功しても、家に帰されては困る。


「行くも帰るも当人の自由だ」


 それだけ言い残して、エシュは通路口を離れて行こうとする。


 部屋に引き返して身を隠すべきか、姿を見られるのも覚悟した上で、ついて行くべきか迷った。

 でも、すぐに追わなければ、エシュは戻って来ない気がした。


 外套のフードを深く被り、エシュの影に隠れるようにして頭を下げ、治安維持の男と古紙店の間を通り過ぎた。


 治安維持の男は黙り込み、追っても来なかった。

 


 

「ロエル」


 頭上から降ってきた声を聞きつけ、顔を上げる。そこにエシュの手があった。僕は何も言わずに、それを掴んだ。


 今更になって、ようやく思い出したのか。そんな文句を飲み込みながら。

 

 

 

「街の見回り、お疲れさハル」と呼ばれる。

それは未遂に終わった。


今は、まだ……。

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